『ギター』
第13回優秀板金製品技能フェア優秀製品
造形を主眼とする組立品の部・銅賞
 Main menuへ 株式会社伊藤製作所(京都市山科区)

写真1 オールステンレス製。ボディー部の連続した曲線だしと、
ネック部とヘッド部を構成するR部どうしの接合に高度技術を要している。
写真2 美観を重視してボディーはきれいな曲線で構成されている。歪みを出さないよう溶接に工夫がなされているのがポイント。
販されている標準ギターと表情・形・精度がほとんど変わらない受賞製品は、自社の技術力を顧客にアピールするために製作されたもの。伊藤博一常務が設定した製品の一つがステンレスの質感とR曲げを強調した “ギター”であった。

 発案者は、自身もギターをたしなむという坂口裕司製造部NC課課長。坂口課長推進のもと、展開・曲げ・溶接の技術者3人でプロジェクトチームをつくり、通常の仕事が終えてから製作に取り組むこと約2カ月。工夫と創作の喜びを感じる2カ月間だったという。


開にあたっては、15のパーツに分解した。
 「まずギターの寸法を測り、展開していくのですが、“目視”が重要なポイントになりました。例えばボディーのR部分も、仮のRをつけて曲げてみて、ギターと比較しながらRを修整していく。当初は曲げてはダメ、溶接してみてはダメの繰り返しで勘どころをつかむまでは多少の時間を要しました。

 特に苦労したのが、ネックとヘッドの裏側のRとRの接合部分です。ネックの裏側部分の接合は、曲げ加工だけではどうしても隙間ができ、“叩き出し”が必要となる。その伸びを推測して、“肉”付けして抜きを行うのですが、適正値を出すまでに5回ほどはトライしたでしょうか」(坂口課長)
 さらに技術比重が最も高かったのがアルゴン溶接だった。溶接の加工ポイントとして、坂口課長は次の3点を挙げる。

 @ボディー部分のサイドと表・裏板との溶接。溶接箇所が連続しているため歪みを出さない工夫がポイントとなる。ボディー部分は袋状になっているために後修正ができないからである。さらには美観を保つために、焼けこげをできるだけ少なくすることも重要なポイントとなった。このためスポンジに水を含ませ、溶接しては冷やすという工夫もなされている。

 Aブリッジ部分の削りだし。板厚2mmの材料を2枚重ねてスポットで溶接。そこから富士山のようななだらかなR形状を手作業で削りだしていく。高度な技術が求められるこの削りだしを行ったのは、溶接を担当した社員だった。

 B前述したRとRの接合部分の溶接。“叩き出し”加工による接合だけに、高度の溶接技術が必要となった。仕上げは坂口課長が担当。グラインダーによる仕上げ作業は2日間を要した。細心の心遣いを要する作業となった。
「ここまでできるのかと驚いたほどギターの製作を通して自社技術を再認識しました。最大の収穫は、達成感と合わせて、自社内に高い技術を持つ社員を再発見・再認識できたことです」(坂口課長


写真3〜4 ヘッドの裏、表部分。叩き出しで形状化されている。
写真5〜6 ネックの表と裏。R形状を持つ2枚の合わせに注目
写真7 ブリッジ部は2枚の板を重ねあわせ、手作業で富士山の稜線のような形に削り出している。
社は板金加工からスタート、その後、電子機器の組立、塗装・メッキの内製化、シルク印刷への進出と、板金加工に付加価値をつけながら、複合的に拡大してきた。
 「今回の出品製品は、総合加工を目指す当社のシンボルでもあるのですが、仕事に対する集中力、達成感、その苦労を楽しさに変えることができるなど、製造業本来の姿を製作過程において認識することができました。そうした意味で今回の受賞は、物作りに携わるものとして素直にうれしいですね。この製品を広くいろいろな方に見ていただけたのは、作り手としては幸せなことだと思っています」(伊藤常務)


 ■株式会社伊藤製作所
 本 社  京都市山科区栗栖野狐塚18-5
        TEL075-593-3600
 創 業  1965(昭和40)年5月
 設 立  1968(昭和43)年
 代表者  松宮正和
 社員数  62名

 事業内容 半導体設備、医療機器設備などの精密板金加工および製缶・溶接加工、表面処理加工、電子機器組立加工、シルク印刷
 E-mail  itoh@itoh-ss.co.jp
伊藤 博一常務 坂口 裕司製造部NC課課長
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