微細加工部品の部・金賞

『てんとう虫』
株式会社最上インクス (京都市右京区)
(写真1) 体長約15mm。ステンレスのバネ材を使い、板厚は0.05mm。1枚板でできている。
賞製品の"てんとう虫"は、見本市など各種展示会にあわせて特別につくられたもの。
 「"てんとう虫"のように、誰が見てもわかる製品を展示し、自社の技術力をアピールしたかった。"昆虫シリーズ"と銘打って4年前から1年に1作ずつ製作していますが、注目度も抜群。非常に好評です」(鈴木三朗社長)
 "コメツキムシ"から始まり"てんとう虫""トンボ""蝶"と続いて今年(2003年)の予定は"セミ"。鈴木社長が昆虫シリーズにこだわるのは、蚊が暗闇の中でも刺す箇所を的確に探り当てる能力をもつように、昆虫はマイクロマシンそのものと思えるからである。
 「日本の製造業が残された道は、マイクロ加工です。今後、マイクロ加工を視野に入れたとき、昆虫からヒントを得られることが多いのではという思いが強くあるのです」
 材質はSUS304-CSP(バネ材)、板厚は0.05mm、要求精度は±0.05mm。加工時間は1個30分である。


(写真2) @レーザー加工機で展開形状に切り抜き、A羽根部分を曲げ重ね、Bてんとう虫の形状に絞り、C足の形を整えて完成となる。


(写真3)

作に当たって鈴木社長が指名したのは、技術開発グループで試作金型の設計・製造を行う北和人氏。豊かな発想力を鈴木社長が高く評価したからである。鈴木社長が要望したのは、昆虫という条件だけ。どのような方法でつくるかは、北氏に一任された。
 受賞製品の加工順序は、レーザー加工機で外形を切り抜き(写真2)、羽根部分を曲げて重ね、二枚重ねのまま絞り加工を行い、最後に足部分を裏側に曲げて形を整える。材料にバネ材を選んだのは、当初は羽根を開かせることを構想したためである。
 「技術力の高さをアピールできる製品」という鈴木社長の要望に応えるために、製作に当たって北氏が自身に課した課題が1枚の板で加工すること。その中で最も苦労し、試行錯誤を重ねたのが、絞り型の製作であった。

 「二枚重ねで絞り加工を行いますから、穴位置のズレやシワの発生を防がなければいけない。問題はダイの材料でした。最初、セラミックのパウダーを固めてみましたが、破砕して見事に失敗。何度かの試行錯誤の末にたどり着いたのがパンチ形状に合わせてウレタンを削ること。これで成功しました。試作品の簡易金型を設計・製作し、コストとリードタイムの削減などをお客様に提案をしていくのが私の仕事だけに、困難とされる仕事ほど、チャレンジ魂が刺激されます。設計から加工まで私一人の手でつくりあげただけに、今回の受賞は望外の喜びです」(北和人氏)


(写真4)

(写真3〜5) 最も苦労したのが絞り型の製作。
ダイにウレタンを使用している。


(写真5)

板の精密板金に特化しながら、試作から量産まで一貫して行える加工体制を構築しているのが最上インクス。
 「お客様のニーズを先取りして全面的に対応していく。"精密板金加工"のコンビニを目指しています。技術・サービスの両面で常に進化し、"それはできません"ということは絶対にいいません」(鈴木社長)
 そして今年(2003年)のキーワードとして掲げるのが"異質"。従来とは異なる業種の新規顧客を獲得し、技術面では大学の研究室との連携など、異質な人々と連携して技術力を高めていくことが狙い。
 「異質への挑戦は、体質・品質・気質など"質"を変えていく。異質とのふれあい、質の改善を社内に徹底して、さらなる飛躍を図っていきたいものです」(鈴木社長)


株式会社最上インクス
本 社 京都市右京区西院西寿町5
TEL 075-312-8775
創 業 1950(昭和25)年12月
設 立 1965(昭和40)年1月
代 表 者 鈴木三朗
資 本 金 2000万円
社 員 数 59名
事業内容 電機部品・電子部品・通信機器・分析機器などの精密試作加工・金属プレス加工・精密金型の製作
U R L http://www.saijoinx.co.jp/
E-mail sales@saijoinx.co.jp
鈴木三朗社長(左)と 製作を担当した北 和人さん