低価格化・小ロット化に直面 |
「リーマンショックから約1年半。事業を撤退したお客さまもいて、それに代わるお客さまの開拓に取り組み始め、何社か新たに取引を始めてはいるのですが、まだ様子見の段階なので仕事量は多くありません。過去の栄光を引きずっていたのではいけない。長い冬の時代が続いていますが、いずれは春が来ると希望を失わないようにしています」と小野克広専務は同社を取り巻く厳しい経営環境について語った。
ピークだった2007年の月間アイテム数は1,500〜1,600点で、現在は1,000点前後。リピート率は40%前後だが、1点あたりのロット数が減少した。「アイテム数の減少以上に、低価格化・小ロット化のダメージが大きい」(小野専務)。得意先は40〜50社。そのうち毎月定期的に受注するのは約半数の20〜30社。売上の多くを占めるのはそのうちの5〜6社となっている。仕事量が落ちていない得意先の仕事はほとんどが新規で一品一様の製品となっている。
「当社の関連会社である(有)ワーク三光社では製缶加工をメインに行っており、中厚板製品や特殊な製品、複雑な製品を手がけています。旋盤・フライス盤といった機械加工設備も備えて、板金加工だけでなく機械加工にも対応し、加工範囲の広さも特長としています」と猪爪
健常務は語っている。

▲小野克広専務 |

▲萩原正男常務 |

▲猪爪 健常務 |

▲(株)三光精密 本社工場外観 |
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盗難をきっかけにSDDサポートサービス導入 |

▲各マシンの稼働状況と稼働内容はvFactoryが
常時チェックしている |

▲発注元から受け取った新規の3次元データとDXFデータの一部はSheetWorksで展開する |
同社は1998年にネットワークサーバーASIS100PCL(SDD)を導入して以来、AP60/100による展開図とブランク加工データの作成だけでなく、AP100のオプション機能によるネスティング(2002年)、Dr.ABE_Bendによる曲げ加工データ作成(2004年)、稼働サポートシステムvFactory(2004年)、生産管理システムWILL受注・出荷モジュール+Mの導入(2007年)など、立て続けにソフトウエアを導入し、デジタル化を推進してきた。
「数年単位でソフトウエアを増強していったことで、サーバーであるSDDへの負荷、データへの依存度は幾何級数的に増していき、セキュリティ対策が不可欠と考えるようになりました。その矢先、事務所が盗難に遭い、ノートPCを盗まれました。この事件をきっかけに、盗まれたのがもしSDDだったら、盗まれなかったとしても悪意のある誰かにイタズラされてそのまま復旧できなかったら、当社はどうなってしまうんだろうという危機感が募っていきました。デジタル化が進めば進むほどネットワークの重要性は増し、扇の要であるサーバーがなければ業務が成立しなくなってしまいます。多少の投資はやむを得ない、当社の生命線であるデータを守らなくてはいけないと考え、アマダアイリンクサービスの『SDDサポートサービス』の導入を決断しました」(小野専務)。
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受注から曲げ加工まで一気通貫 |

▲5台のネットワーク対応型ベンディングマシンが並ぶ曲げ工程 |
デジタル化を推進した結果、同社は受注管理から展開・CAM割付・加工・出荷管理まで、一気通貫の生産体制を構築している。
受注データはWILL受注・出荷モジュールに登録。受注図面は、紙図面が40%、2次元のDXFデータと3次元データが30%ずつとなっており、紙・DXFならAP100で、3次元データならSheetWorksで展開を行う。プログラマは展開を行いながら、ブランク工程の各加工マシンへ割り振りを行う。主力のシングルパンチプレスHMXが金型を持っていなかったりRが付いていたりするものはパンチ・レーザ複合マシンAPELIOVへ、VIPROSが金型を持っていればVIPROSへというように割り振り、WILLから生産指示書を発行して現場へ流す。
ネスティングと曲げ加工データの作成は各工程のオペレータが兼務する。ネスティングは歩留りを優先して板厚・材質が同じ製品はなるべくまとめ加工するように気を配り、曲げ工程のオペレータはDr.ABE_Bendの曲げ加工可否で“不可”と判定された製品の不可理由に従って手動で曲げ加工データを作成し、各マシンから加工データを呼び出して加工。各加工マシンの稼働情報はvFactoryがリアルタイムで取得し、特にトラブル発生時の対応に重宝している。
「受注から曲げ加工前の板金工程はデジタル化が進み、かなりの省力化ができています。特にDr.ABE_Bendによる曲げ加工データ作成の外段取り化の効果は大きく、作業の立ち上がりや、作業者が図面を見て考える時間は大幅に短くなりました。Dr.ABE_Bendの指示通りにすれば加工できてしまうために、作業者が図面を見なくなるという弊害が出るほどで、公差が入った図面もありますから、必ず確認するようにと指示を出しています」と萩原正男常務は語っている。
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溶接工程の省力化 |
「現在の課題はその前後、見積りと溶接の工程です」と小野専務は語る。溶接工程はどうしても人手をかけなければならない。同社の場合は特に手間のかかる製品が多く、溶接・組立以降は「ほとんど手づくり」(小野専務)。
「溶接工程も、それ以前の工程と同様に、例えば溶接位置ごとの引っ張り具合や電流値といった溶接条件をデジタルデータで一元化し、ネットワークを通じて共有できるようにしたい。データの再利用により溶接作業者が溶接順序などを考える時間を減らし、省力化と品質安定に繋げられればと思います。さらに、ゆくゆくは多品種少量生産に対応した溶接ロボットの登場にも期待しています」(小野専務)。
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見積りの標準化にも意欲 |
「もうひとつの大きな課題が見積りです。現在、当社では各担当者がそれぞれ自分なりの経験や勘に基づいて見積りを行っています。そうすると、例えば5人が見積りをすれば5通りの金額が出てきてしまう。また、同じ担当者でも、1カ月前と1カ月後とでは見積り金額にバラつきが出てしまう。コストダウン要求がますます厳しくなっている現在、お客さまに納得してもらうためには裏付けのある金額の提示が求められます。そのためにWILL見積りモジュール+LDのような見積りソフトによる見積りの標準化―コストテーブルを社内で統一することも検討しています。裏付けのある数字があってはじめて、発注が可能か、値引きをするのか、コストダウンのための設計変更といった商談に発展します。もちろん、お客さまの予算の関係から、製番をまたいだ金額調整をすることはありますから、実際の見積り金額の一本化はできませんが、それにしても担当者の“記憶”ではなく、コストテーブルに対してどういう調整をしたのか“記録”として管理していくことが大切です」(小野専務)。
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損益分岐点ぎりぎりで勝負するには原価管理が必須 |
「コストテーブルをつくるには、原価の把握が不可欠。新規開拓のために、限度価格で見積り参加して受注している仕事もあります。価格が厳しく見直されていく中では損益分岐点ぎりぎりで勝負しなくてはならない取引が増えてくる。その意味でも原価管理は必要です。原価の算出には外注費・穴数・曲げ数・社内工数といった要素が不可欠。穴数・曲げ数は、展開図を作成し、曲げ線を追加して立体姿図を作成する過程で分かります。しかし、現在当社がWILLに登録している現場の進捗情報は“完了”のみで、“着手”の情報を取得していないために厳密な工数が把握できていません。今後は運用面での改善も求められます」(猪爪常務)。
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中小サプライヤーもセキュリティ対策が求められる時代 |

▲自動倉庫MARS(10段6列)とリンクし、長時間自動運転が可能なVIPROS-358 King |
「こうしてネットワークがカバーする範囲が拡がっていくと、扇の要であるSDDの重要性はさらに増していき、データの保護が課題になっていきます。その点、今回のSDDサポートサービスの導入は良いタイミングだったと思います。また、今後、生産拠点の海外シフトが進むと、国内メーカーのマザー工場で開発・試作を行い、作成したデータをWeb経由で海外へ送付して量産に入るといったような、海外との連携も視野に入ってくるでしょう。取り扱う製品の付加価値が高まり、海外とも連携するとなれば、セキュリティ対策は自社だけの問題ではなくなっていきます。これまでにも、お客さまから当社のセキュリティ体制に関して問い合わせを受けたことがありますし、4年ほど前にファイル共有ソフトWinnyによる情報流出事件が多発した頃には直接監査を受けました。現在はほとんど機密保持契約を取り交わす程度ですが、これからは中小サプライヤーのセキュリティポリシーも厳密に問われるようになっていくと考えています」(萩原常務)。
ネットワーク化とともに成長してきた同社は、中小サプライヤーにも厳密なセキュリティ管理が求められるようになる状況を視野に入れながら、さらなるデジタル化の推進で生き残りを目指す。
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