IT活用インタビュー
 
提案型メーカーの心臓部は「IT力」

−技術と地域をコリドー(回廊)で繋ぐ活動に参加−
(左)設計からモデリング、製作した製品
(右)完成及び出荷は事務所にてバッチ処理てバーコード入力
有限会社和気製作所
代表取締役

和気 利之

住所 福島県白河市東工業団地南1
TEL 0248-34-3737
設立 1966年
従業員数 7名
URL http://www.wakess.co.jp/
業種 産業機械、電気機械、通信機械、機構部品
   
会社経歴 1966年に神奈川県川崎市で和気社長の両親が創業。和気社長はコンピュータ関係の仕事を目指していたが、父親の逝去後、大学を出るまで経営を代行してくれた母親や社員たちの気持ちに応えるため入社。1年後、主要得意先の工場移転に伴い現在地に移転、専門だったIT技術を駆使して独自なシステムを構築。
2006年にISO14001の認証を取得。

主要設備
パンチングマシン PEGA-345、ベンディングマシン RG50×2台、RG35、インバータ式テーブルスポット溶接機TS-86KIなど
 
 親からバトンタッチ
 「厳密に言えば私が3代目の社長になります。1966年に神奈川県川崎市で金属加工の仕事を両親が始め、私が大学生の時に父が病に臥し、『もう学業を続けるのは無理かもしれない』と暗澹たる思いをしていましたが、『あなたが後を継いでくれるのなら私が繋ぎをします』と母親に申し入れられ、卒業するまで母親や社員たちに頑張ってもらいました」とドラマチックないきさつを語る和気社長。
▲和気 利之社長

▲白河市東工業団地南1 に建つ 鋸a気製作所
 
 いきなりの地方移転の話に仰天

▲工場内
 「突然、主力発注元が福島県に工場進出する話が舞い込んできました。当社の工場も手狭になっていたのでこれを機会に工場移転を考えるのも時代の流れ、と思うようになりました」。日本経済が円高不況からバブルに突入していく時期で、川崎市の工場の周りには大規模な高層マンションやアパートが建ち始め、急速に宅地化が進行。これ以上の工場拡張は望めない環境になっていた。工場は福島県、本社は両親のルーツである川崎市に残している。

 「大学では工学部に在籍し、所属したゼミではUNIXワークステーションをかなり自由に使わせてもらいました。卒業論文は有限要素法による磁性体の解析をテーマにし、会社を継ごうと決める前は、研究開発部門での仕事をしたいと考えていました」が、父親の早すぎる死により事情は大きく変わった。

 EDI(電子取引)を武器に新天地へ臨む

▲和気社長自らがMicrosoft Accessを使って自作した受注および出荷管理ソフト
 1987年、入社2年目で現在地に工場を建て、事業を展開していく。

 「父である先代社長と仕事の接点がなかった事もあり、板金加工については勉強しなければならない事だらけ。見るに見かねた同業者の社長さんからアドバイスをいただいたり、社員と共にまず基本的な技術を磨きながら、なんとか軌道に乗せていきました。」初めての土地、社員も何人かが変わった中で社長の奮闘が始まった。しかし、コンピュータをアイテムに社長は独自のシステムを構築していく。

 「電気機器・産業機器向けのケース・パネル・金属類・板バネなどの薄板を中心に手がけています。得意先は約30社、その中の10社くらいで売上の90%くらいになっています。大手のお客さまからはEDIで受注、当社で使用しているCAD/CAMはDWG・DXF(IGS)・ STPに対応しておりPDFの場合もCADソフトやイラストレータで作成されたものなら寸法を拾う事ができました」。受注は新規20%、リピート80%とリピートの方が断然多いが、そのリピートも2〜3回で終わり、というように、ライフサイクルが短くなってきているという。だからリピートといっても設計変更も度々で、新規と同じ感覚になってくる。

 さらに「最近は漠然と、こんなモノをつくってほしい、と言われることがあります。その場合、図面から当社でつくることになりますが、自社で作成する図面は自社の設備やつくり方に合わせて最適化する事ができるので、即加工に入れます。そして、試作した製品が後々、量産化されるようになれば、それはそれで魅力的です。新企画のキックオフミーティング時には2次元の図面データや3次元モデルを使って構造と設計意図を説明します。そうすることでお客さまの理解も早く、受注に繋がる率も上がっていきます」。

 設計から請け負う

▲製品デザインから板金設計すべてを受けて
3次元CADにてモデリング

▲設計が完了したものは三面図に変換

▲完成および出荷は事務所にてバッチ処理で
バーコード入力

▲受注情報、CADデータ、展開データ、CAMデータおよび出荷情報はサーバー上のHDに保存され、その上自動で他のHDにバックアップ
 「図面を描きながら、当社が保有する曲げ金型やマシンまでを考慮し、『それだったら、この工法の方が安くできるな』などと考えながら図面を引き、プログラムを組むのでコストも抑えた提案を行なっています。3次元モデリングは機械加工用の3次元のモデリングソフトを活用。表面を加工した製品に厚みを持たせて板金部品をつくって、3次元で組立た時に摺動部分が干渉するかどうか、見かけがどうなるのかといった確認を事前に行なうために使います。そこから、DXFやDWGに変換します。複数のハードディスク(HD)をまとめて試験する装置の機構製作依頼をいただいた事がありますが、装置全体を恒温槽に入れるため、装置の出し入れや単独試験モジュールが装置にいくつ入るか、といったことを3次元で確認しながら、モジュールそのものの構造やサイズをアジャストしていきます。最終的にハードディスクをモジュールの樹脂製ガイドに沿って挿入するとコネクタに収まり、ネジを使わずに着脱ができる作業性の良いモノができました。コネクタやハードディスクの物理スペックをWebで調べて板金部品とジャストフィットするように設計し、お客さまにもご満足いただけた様子で3回程リピート受注しました」。

 「昔は、同業者の量産の下請け的な仕事もセッセとこなしていましたがそういった仕事の多くは海外に移転してしまいました。日本に残る仕事は多品種少量、短納期、高品質な製品だけになります。ですから将来にわたって仕事が継続できそうな分野の仕事を開拓するように心がけています」と将来を見通しての発言は重みがある。

 ホームページ(HP)による成長受注システムの構築

▲図面もスキャナーで取り込んで受注台帳とリンクされているため製作指示書=製作図面となる

▲外注処理が完了して納入された時には端末の画面に図面を呼び出して現物と照合
 「インターネットに、独自のドメインを持っているところが少ない頃からHPを立ち上げていました。PCは投資の割に“戻り”が大きい、と感じています。HPは家内が作成・メンテナンスもやっています。7年前、あるお客さまからHPで問い合せを頂いて、新しい商品ということで工場見学に来られ、ついでに『こんな製品はできるか』と尋ねられ、全溶接の品物を『当社のテーブルスポット溶接機でやれば半額くらいになります』と答え、それが今では2番目の発
注元に成長しました。図面を投げられれば、効果的なコメントをつけて修正図を返信したりと様々なVA/VE 提案をして喜ばれています」。

 受注情報はEDIで入ってきて、社長自らがMicrosoft Accessを自社用に改良して自作した受注・出荷管理ソフトで処理される。メールなどで来たデータは手入力して受注台帳ができ、図面もスキャナーで読み取り、受注台帳とリンクしていて製作指示書となり、製造管理表を添付して現場に流し投入・完了したところまでは管理されている。出荷は「Microsoft Visual Basicで作成したバーコードリーダー用ユーティリティを使って納品書のバーコードデータに納入日を付加してAccessに取り込んでいます」。完了・出荷は事務所でバーコードによりバッチ処理される。

 未来を拓くツール
 「これからは小さなアイデアをカタチにしていくお手伝いをするような仕事、研究開発機関や教育機関、治具などの業界をターゲットにしていきたい。ただ、そういったところすべてに営業をかけるのは無理なので、例えばHPでの検索ヒット率を上げることから始めていきたい」。

 同社は経済産業省が進める「産業クラスター計画プロジェクト・TOHOKUものづくりコリドー」という光産業分野振興の活動にも協賛、IT力・デジタル力を武器に、社内の効率化の追求のみならず、地域の発展にも意欲を燃やす。

 
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