IT活用インタビュー
 
アクティブホームページの導入で技術営業の素地を固める

−自社開発の生産管理システムを刷新−
(左)得意先がアクティブホームページにログインすると同社の保有金型や加工範囲など とともに発注品の進捗状況を見ることができる
(右)アクティブホームページの発注品の進捗状況
共栄工業株式会社
代表取締役

吉澤 英理子

住所 長野県岡谷市山下町1-15-3
TEL 0266-23-2266
設立 1941年
従業員数 125名(本社77名、山梨工場48名)
URL http://www.kyoei-k.co.jp/
業種 通貨機器、医療機器、写真関連機器、印刷機器、試験設備
   
会社経歴 1954年、吉澤英三氏が絹糸の生産を行う岡谷共栄製糸鰍ノ入社。1963年、現社名に変更し、電子部品製造分野に進出。1980年に社長就任。1984年に本社工場を精密板金加工に転換、1988年に山梨工場が稼働。 2008年に現社長の吉澤英理子氏に社長職を譲り、会長に就任。本社工場はISO9001、ISO14001認証取得済。

主要設備
パンチ・レーザ複合マシン EML-3510NTP+ULS-48RM+AS-48RM、APELIOV-357VNT(マニプレータ付き)×4台など、パンチングマシン EMZ- 3510NT+ASR-48M、ベンディングマシン ASTRO-100NT、ASTRO-100M×2台、HDS-5020NT×3台、HDS-8025NT×2台、YAGレーザ溶接機YLR-1500V、ソフトウェア AP100×4台、SheetWorks、Dr.ABE_Bend、 Dr.ABE_ASTRO、vFactory
 
 吉澤社長の念願、生産管理システムを刷新
 今年2月、同社はMicrosoft Accessをベースとした生産管理システムを刷新。現場の作業者の着手・完了情報を吸い上げ、リアルタイムで進捗を確認するとともに、工数の情報から原価を算出し、個別単価を弾き出せるようになった。

 「あれは私の念願でした」と吉澤社長は感動を隠さない。「板金加工ほど1つの製品が多岐の工程を渡っていく業種は他にありません。ですから、原価計算が煩雑になりすぎて手作業では無理がある。当社に入社する前は金融関係の仕事をしていたこともあって、金額面―特に原価管理は疎かにできない性格でした。しかし、私が手作業で原価を弾き出そうとすると、土日をつぶしても1週間に3点できれば良い方だった。どの板金企業でも改善計画書をつくれば必ず原価計算が項目に挙がってきますが、言うは易し行うは難しの典型で、なかなか実現できません。私も入社以来10年余、原価管理をちゃんとやろうと言い続けてきたのですが、多品種の量産が中心でとにかく忙しい。忙しいと、とにかく前を向いて、売上をどうやって伸ばすか、日々の仕事をどうやってこなすか、といった方向にばかり意識が向き、原価や生産性を記録して振り返る管理業務は疎かになりがちです。目に見えないところで少しずつ変わってはきたのですが、こうしてカタチになったのは初めてです。だから感動なんです」(吉澤社長)。

▲共栄工業(株) 会社外観
 
 着手・完了の情報を吸い上げ、正確な工数管理を実現

▲河西秀樹部長

▲河西部長がMicrosoft Accessをベースに自らつくり上げた生産管理システムの受注台帳
 生産管理システムに対する同社の取り組みは早かった。かつてはMSDOSベースの生産管理システムを運用しており、1997年には2000年問題に配慮してAccessベースのシステムに移行した。このたび刷新したシステムでは、従来の生産管理の仕組みに原価管理の枠組みを入れ込んだ。

 EDIで入ってくる受注情報は自動的に、EDI以外から入る受注情報は手入力で受注マスタに登録される。発行される生産指示書には製造番号を表現するバーコードが印字されており、現場では各作業者が端末を使ってバーコードを読み取ることで、着手・完了の情報を吸い上げる。実際の作業工数を中心に現場の情報を吸い上げることで、工程の進捗と加工に要した工数をリアルタイムで把握し、原価に反映することができる。

 吉澤社長は「製品の個別単価を瞬時に出せるようになっただけで大きな進歩です。このシステムを開発した河西(部長)は当社で10年以上、生産管理を見続けてきました。優秀なSEは世の中に山ほどいますが、精密板金加工の特性を知り尽くしていて、なおかつ当社が使いやすい独自仕様の生産管理システムを社内で開発できるような人材はまずいません」と賛辞の言葉を惜しまない。
 苦難の時期、“数字”を武器に
 「1年と少し前に先代(吉澤英三会長)から事業を受け継ぎ、社長に就任した直後に景気は急転直下、赤字が出て1年間は泣きどおしでした。しかし、仕事が減り、コストダウン要求が厳しい時期だからこそ、正確な原価管理の必要性を痛感しました。今の時代、攻めるにしても守るにしても社員の待遇を査定するにしても、“感覚”は評価や行動の根拠にできない。今の不況は精神論で乗り越えられるほど甘いものではありません。“数字”でなんでも話せるようにしたいと考えています。よく吟味された公平な“数字”は、経営判断の根拠としてだけでなく、人を説得するためにも大きな武器になります。そのためにもIT化は不可欠な要素です」(吉澤社長)。

 DXFが80 〜 90%、EDI受注が主要得意先の90%を占める

▲新規品の受注図面は全体の99%がDXF。
EDI受注と同時に送られ、AP100で展開作業を行う

▲3次元データはSheetWorksで展開作業を行う
 同社が取り扱う業種は貨幣処理機器、駅務機器、医療機器、写真画像処理装置関連機器、印刷機械、電気機器、試験設備関連など。長野県岡谷市の本社・工場と南アルプス市の山梨工場がある。正社員だけで本社77名、山梨工場48名の計125名。取引社数は両工場を合わせて年間150社くらい、そのうち毎月定期的に受注するのは本社30 〜 40社、山梨工場20社前後で計50 〜 60社となっている。主要な得意先の90%近くがEDIによる受注に移行し、主要得意先の1社が現在移行中で、それが完了すれば100%となる。

 河西部長は「当社の生産管理システムも、初めからEDI受注を前提につくり込んでいます。EDIが普及するまではいちいち打ち込んでいたわけですから、とても楽になりました」と話す。

 月間アイテム数は3,000点以上で、ライフサイクルは短くなっているもののリピート率は約70%。受注図面は2次元データ(DXF)が80〜 90%で、3次元データが10 〜20%、紙図面はごく一部となっている。 EDIやDXFなど、紙から電子データへの移行を積極的に推進してきた背景には、「業容が拡大するにつれ、これからはIT化が不可欠になるという強い意識がありました」(吉澤社長)。

 vFactory・加工マシンとの連携で工数算出の精度を高めたい

▲パンチ・レーザ複合マシンEML-3510NT。
TK(テイクアウトローダー)・PDC(パンチ・ダイ自動交換装置)付き

▲曲げ工程では曲げ加工ロボットASTRO-100付きのHDS-1030とFBDV-8025が2台の計3台が自動で稼働

▲新規品の展開図データはDr.ABE_Bendが自動で曲げ加工データを作成する

▲稼働サポートシステムvFactoryにより工場の各マシンの状況を事務所で常時把握できる
 受注図面の大半を占めるDXFの場合、受注後はAP100で即座に展開、紙三面図はAP100で面出し、面合成で展開する。3次元データはSheetWorksで展開し、AP100に引き渡してCAM付けを行っている。
「3次元データの場合は逆に紙図面に代わるものがありません。現場に流すにあたっては製作図面上での指示が欠かせないので、SheetWorksから三面図に落とし込み、出力しています」(河西部長)。また、WinNESTでネスティングを行っているため、1枚の板材の中に異なる製番の部材が混在することになり、原価管理を複雑にしている。

 「生産管理システムは、ブランク工程以降の曲げ・溶接・組立・検査までカバーできるようになっているので、今後はブランク工程が課題になります。ネスティングをする以上、ワンクランプの稼働時間を単純に工数として落とし込むことができない。そこは幸い当社のブランク工程がアマダマシンで統一されており、稼働サポートシステムvFactoryも導入しているので、これを活用することで加工マシンから稼働時間を吸い上げ、原価に反映させられるようにしていきます」と河西部長は語っている。

 アクティブホームページの活用

▲得意先がアクティブホームページにログインすると同社の保有金型や加工範囲など とともに発注品の進捗状況を見ることができる

▲アクティブホームページの発注品の進捗状況
 同社は4月、アマダアイリンクサービスが提供するアクティブホームページの運用を開始した。このサービスは、自社HPを通じて、発注元の資材担当者向けに生産管理情報の一部を公開するとともに、発注元の設計担当者向けに同社が保有する詳細な技術情報を公開することができる、というもの。これまでにも何社か導入事例を紹介しているが、同社が特徴的なのは、自社製生産管理システムを河西部長の独力でアクティブホームページと紐付けたこと、そして生産管理情報の一部公開よりも技術情報の公開の方に力点を置いている点である。

 「当社が保有する技術情報の公開によって、当社にとっては保有技術を整備するとともに、社員の認識を統一し、意識を高める1つの要素になるだろうと考えました」と河西部長。「バラバラで系統立てられていなかった技術が整理され、それを公開することで、お客さまとも共有する。お客さま―特に設計担当の方には、図面の描き方ひとつをとっても意識してもらえるだろうし、加工サイドと設計サイドの距離が縮まり、より緻密な連携が取れるようになる。製造のことを意識しながら設計できる仕組みとして、重視しています」。

 吉澤社長は、「かねてから技術営業を育てたいと考えていて、すでに若手の育成を始めました。お客さまからは納期短縮やコストダウンを厳しく要請されますが、例えば設計変更や材料の変更に対応するために数カ月もロスしたり、一般的でない素材や購入品を使うよう指示されることでコストが跳ね上がったりする。与えられた条件の中で生産性を向上することも大事ですが、それ以前に“条件”そのものにまで踏み込んで、当社にとってはよりつくりやすく、お客さまにとってはより早く、より安くできるように積極的に提案していきたい。そうした提案をするためには、仕事を受けてからフィードバックするのでは遅いのです。当社の技術情報に精通した営業担当者がお客さまの設計まで入り込んで、仕事が出される前の段階で技術的な提案をしていく。それがこの時代を生き抜くひとつの道だと思います。もちろん進捗情報の公開も、運用しているお客さま数社からは概ね好評ですが、当社は技術営業を推進するサービスの一貫として、アクティブホームページを評価しています」。

 社長就任直後に最悪の時期を体験した吉澤社長は今、慎重に、しかし着実に攻勢に転じようとしている。

 
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