IT活用インタビュー
 
日本〜中国間の情報共有と
セキュリティ確保の両立を目指す


−中国進出で建機の海外生産に対応−
SheetWorksにより3次元モデルから展開図を作成する
株式会社岡本製作所
代表取締役 岡本 輝興(おかもと てるおき)
住所 東京都昭島市松原町2-3-21
TEL 042-541-2521
設立 1945年
従業員数 109名
業種 建設機械車両部品・産業機械部品・電気機器の板金・プレス加工とアセンブリー
URL http://www.okamoto-gp.co.jp/
   
会社経歴

1945年、初代社長・岡本米松氏によってプレス・板金工場として創業。
1964年以降、現社長・岡本輝興氏への交代を機に、次々に大手建機メーカーとの取引を開始。
2007年6月、上海に「上海聯高金属製品有限公司」を設立。同年12月、蘇州に「岡本横浜(蘇州)機械有限公司」を設立。ISO9001、ISO14001取得済み。


主要設備
パンチ・レーザ複合マシン EML-3510NT+ASR-48M、レーザマシン LC-1212αUNT+LMP-2412α、LC-3015βV+LSC-510、ベンディングマシン HDS-8025NT、FBDV-1025NT、2次元CAD/CAM AP100、曲げ加工データ作成全自動CAM Dr.ABE_Bend、稼働サポートシステムFactory
 
 中国に2工場を設立

▲西江園一久専務
 同社は建設機械や産業機械車両のエンジンフードやホイールローダ用バケット、バッテリーボックス、シートアセンブリー、ライトブラケットアセンブリーなどの板金溶接部品の加工・溶接・組立を行ってきた。

 主要得意先である建機メーカー3社はいずれも中国へ進出しており、グローバルコストと顧客ニーズに対応するため、2007年6月に合作企業「上海聯高金属製品有限公司」(以下、上海工場)を設立し、日本向けに建機部材の輸出を行うようになった。さらに、中西部大開発で建機需要が急激に拡大する中国市場での増産を計画する大手建機メーカーの要請に応じるかたちで同年12月、蘇州に独資で進出、「岡本横浜(蘇州)機械有限公司」(以下、蘇州工場)を設立し、外資系(日系含む)建機・農機具メーカー向けにエンジンフードやカバーといった板金部材を製造するようになった。

 エンジニアリングは日本に集約

▲AP100でつくられたCAD/CAMデータはASIS100PCLサーバー(SDD)に登録する

▲SDDから加工データを呼び出してWinNESTおよびDr.ABE_Blankでネスティングを行う
 現在、日本の本社工場では国内向けに特化した機種や、中国で生産していない建機部材を生産している。得意先から受け取った技術情報をもとに2次元CAD/CAM AP100で展開し、WinNESTおよびDr.ABE_Blankでネスティングを行う。特徴的なのは、得意先から受け取った外形モデルの3次元データや組み図をもとに、展開の段階から溶接分断位置を考慮してバラシ・展開を行い、VA/VE提案に結び付けている点だ。例えば、製造性を考慮した結果、歪みが出にくい、または歪みが発生しても歪み取りがしやすいよう、通常は溶接する個所をR曲げ、異なる部位で開先加工と溶接を行い、組み立てる提案なども行っている。

 蘇州工場には2次元CAD/CAM AP100を設備しているが、現地のスタッフにはこうしたエンジニアリングの経験が不足しているため、日本向け・中国向けを問わず新規の試作は原則として日本で行い、量産が決まった中国向けの製品はデータを現地へ送り、現地のAP100でネスティング後、加工を行っている。上海工場は比較的スキルが高いため、日本で試作して上海へ生産を移管する場合にはデータを送っているが、現地で生産する比較的簡単な部材のプログラムは現地でも行える体制を築いている。
 デジタル化・自動化が進む日本の本社工場

▲工場の加工状況は稼働サポートシステムvFactoryで把握する

▲vFactoryのデジタル稼働日報で各マシンの
稼働状況を把握する
 本社工場のリピート率は90%以上。機種のマイナーチェンジに対応して試作をするが、そのまま量産に入る。取り扱う材料はSS400、板厚1.6〜6oが主。製品によっては9・12oまである。

 ブランク工程にはパンチ・レーザ複合マシンEML-3510NT、レーザマシンLC-1212αUとLC-3015βVがあり、EMLには板厚6 以下、αは3〜4o、βで12o以下という板厚で振り分ける。曲げ加工データは、HDSやFBDなどのネットワーク対応型ベンディングマシンなら板金ネットワークサーバーASIS100PCL(SDD)サーバーへ、RGなどの汎用マシンなら外付けのPCにデータを保管し、リピート時にはその都度呼び出して加工する。現在は溶接工程でもロボット化を拡大しているため、溶接用の加工データも重要になってきている。

 また、稼働サポートシステムvFactoryを導入し、ネットワーク対応型マシンの稼働実績をデジタル稼働日報・月報をグラフで出力し、稼働実績や進捗の“見える化”を進めている。

 「それまではすべて手作業で計算していたので、ずいぶん楽になりました」と西に しえぞの江園一久専務は語っている。「vFactoryにより正確な実績データが取れ、1カ月間でどれだけ稼働できたかが分かります。当社は中厚板加工が主で自動化を進めているため、ブランク加工マシンの稼働時間が長い。直近ではαは月間350時間、βは260時間、EMLも300時間を切ったことはありません。各加工マシンの実績から板厚・枚数・時間などを把握できるので、管理上、非常に効果的です」。

 中国2工場の生産体制

▲L/UL(ローダ・アンローダ)・棚付きのレーザマシンLC-1212αUNT
 蘇州工場には日本からの出向スタッフが5人常駐し、従業員数は160人を超える。レーザマシンFO-3015NT、ベンディングマシンFBDV-1253NT/1025NTの他、プラズマ切断機、CO2半自動溶接機18台(ロボット1台含む)やTIG溶接機2台、スタッド溶接機、スポット溶接機、カチオン電着・粉体・溶剤塗装設備などを保有している。

 従業員80人超の上海工場は、レーザマシンFO-3015NT、パンチングマシン、汎用ベンディングマシン3台、プラズマ切断機、ショットブラスト塗装設備などを持つ。

 いずれも原則として、日本の本社工場でつくり込まれた加工データを中国へデータ送信して生産している。だが、中国ではビジネス上のやりとりでもウイルス感染などセキュリティ上のリスクが大きい。そこで、日本〜中国間でデータをやりとりする際のセキュリティ管理の強化が課題として浮かび上がってきた。

 スムーズなデータ連携とセキュリティ管理が課題

▲TK(テイクアウトローダー)・棚付きのパンチ・レーザ複合マシンEML-3510NTは、夜間の無人運転にも対応する
 「今年9月、本社工場のコンピュータがウイルスに感染するという出来事がありました。そのときには、感染したPCだけでなく、製造ラインも含めて社内のすべてのコンピュータのウイルス感染の有無を検証するために、数日間、情報系のネットワークを止めて社内のセキュリティ体制の再検証を行いました。検証の結果、中国とのビジネス上のやりとりを行っているときに、PCがウイルス感染した可能性も否定できないことが分かりました。 それまで当社は、日本国内と同じような感覚で中国とのビジネスを捉えていましたが、中国企業とのデータのやりとりは、国内企業に比べてリスクが高く、セキュリティをさらに強化する必要があると痛感しました」。

 「その一方で、どの会社でも悩んでいることだと思いますが、セキュリティを強化しすぎると、作業効率が落ちることがあります。ネットワークを活用したビジネスは、今後の当社に欠かせないものだけに、いかに作業効率を落とさずにセキュリティを強化するかは絶対に克服しなければならない課題です。セキュリティに、これで十分、というものはなく、常に最悪の事態を想定して強化し続けていくべきものと考えて、セキュリティの確保と作業効率の向上という相反するテーマに取り組んでいます」。

 蘇州工場の実績管理を希望

▲ホイールローダのバケット

▲建設機械用部品をサンダーで仕上げる
 「もう1点、情報共有という面では蘇州工場の実績管理も課題です。本当は生産管理システムの一元化まで実現したいところですが、そもそも本社工場と蘇州工場とでは使っているシステム自体がちがうし、生産管理となるとセキュリティ上のハードルも高いので、すぐに実現できるとは考えていません。しかし、せめてvFactoryを活用した稼働実績の管理はできるようにしたい。上海工場は現地の代表がこまめに現場をまわって状況を把握していますが、蘇州工場では大まかな額面上での管理で、きめ細かなスケジューリング管理を進めていく上で、実績把握に対する具体的な情報が不足しています。これでは管理をするには不十分。本社工場と同様、vFactoryを導入し、ネットワーク対応型マシンの情報を自動的に吸い上げ、Web経由でサーバーに蓄積し、日本からでも日報・月報のかたちで閲覧できる仕組みを構築することも検討しています」

 日本・中国を問わずデジタル化・自動化に意欲

▲90%がリピート品のため、曲げ工程では補正後の加工データを活用し、リピート加工時にはSDDから呼び出して加工する
 「中国の旺盛な社会インフラ投資に支えられて、上海・蘇州の両工場は今後も安定した成長が期待できます。ブランク・曲げ工程はネットワーク化・デジタル化が進んでいますが、課題は溶接工程です。建機関連の中厚板加工では歪みを出さない溶接と組立が不可欠。しかし中国では、経験・スキルのある溶接工が不足しています。今後ますます仕事のボリュームが膨らめば、中国でも溶接工程のデジタル化・ロボット化を検討していかなくてはならないでしょう。また、日本の本社工場も、ここまで円高が進むと、技術的なアドバンテージがあったとしてもコスト競争に飲み込まれてしまいます。今後は日本・中国を問わず、さらなる自動化・ロボット化によってグローバルコストに対応していく必要があると考えています」。
 
その他の記事 Sheetmetal&digital-bankin.com はこちらからご覧下さい。