IT活用インタビュー
 
海外調達により得意先・協力工場両社とWin-Win関係を築く

−サービスをよりスマートに提供−
稼働サポートシステムvFactoryで工場全体の稼働状況を把握する
伊東板金工業株式会社
代表取締役 伊東 健二
住所 京都府京都市南区上鳥羽苗代町33
TEL 075-661-2778
設立 1960年(1950年創業)
従業員数 60名
業種 各種券売機、駅務関連機器、半導体製造装置、医療用分析機器
URL http://www.ito-bankin.co.jp/
   
会社経歴

1950年に市内で創業し、1957 年から大手電機メーカーと取引を開始。
1960年に株式改組、会社設立。1964年に現在地に本社・工場を移転。1972年、精密板金分野に進出し、券売機などの部品加工から 組立までの一貫工場となる。1997年、滋賀工場を組立・配線工場として新設。ISO9001、ISO14001認証取得済。


主要設備
パンチ・レーザ複合マシン APELIOV-255 EcoNT、パンチングマシン EMZ-3510NTP+ASR-48M、ベンディングマシン HDS-8025NT×2台、FBDV-1025NTなど計8台、3次元ソリッド板金CAD SheetWorks、2次元CAD/CAM AP100、曲げ加工データ作成全自動CAM Dr.ABE_Bend、稼働サポートシステム vFactory
 
 “スマート性”を追求

▲伊東健二社長
 「今年の全社目標は『サービスをよりスマートに提供する』です」と伊東健二社長は語り始めた。

 「技術的にもSCM( サプライチェーンマネジメント)の面でも、お客さまの進化のスピードはものすごい。その一方、板金業は技術的には進化しても、“サービス”の面では旧態依然としているところがまだまだ多いように思います。それで昨年は『製造業のサービス業化』を目標に掲げたのですが、今年はそれをさらに掘り下げ、お客さまのニーズを先取りし、ムダをなくすような賢さという意味での“スマート性”を追求していきます」。

 海外調達にも着手
 同社は京都市内に本社工場、滋賀県草津市に滋賀工場を持つ。

 本社工場では、自動券売機・自動精算機などの板金加工や、半導体製造装置・医療用分析機器などの精密板金加工を行う。1997年に立ち上げた滋賀工場では、各種装置の組立・配線とリペア事業(ATMモジュール部品のメンテナンス事業)を行っている。

 これに加えて、2006年頃からは中国・福建省の協力工場と取引を開始し、切削加工や板金加工の一部を委託。海外からの部材調達にも力を入れている。

 「海外調達については、1990年代の中頃から考え始めていました。その頃は第1次中国ブームで、お客さまから『もうすぐ仕事量は半分くらいになる。10年後には1/3くらいになる』と言われていました」

 「しかし、一足飛びに中国へ独資で進出するのは抵抗がありました。中国に工場を持っているお客さまもいましたが、まだ日本の仕事は流出しておらず、特に要望を受けたわけでもありませんでした。そこで、リスクを背負って独資で進出するよりは、ネットワークをつくって調達するのが得策だと考えました。2006年から切削の仕事を頼むようになり、板金の仕事も頼めるようになったのは2010年に入ってからです。今はカバーやフレームの製作を試験的に依頼している段階です。協力工場にとっても、日本のモノづくりを学びたいという思惑があったので、Win-Winの関係を築けていると思います。もちろん、課題とされる品質や納期は当社が責任を持って管理します。何かトラブルがあれば、赤字を出してでも当社が対応します。それができるのが、商社と、当社のような加工業者との最大のちがいです」。


▲伊東板金工業(株) 本社外観

▲同社の協力工場がある中国・福建省の街の風景
 期待と責任に応える

▲SheetWorks で展開した後はASIS100PCL(SDD)に保存される

▲Dr.ABE_BendがSDDから自動で呼び出し、曲げ加工データを作成する
 得意先の数は大小入れて70社前後。このうち、券売機・ATM関連と半導体製造装置関連の2社で、売上全体の80%近くを占めている。

 「特に、券売機・ATM関連を手がけるお客さまとの出会いがあったからこそ、当社は設立50周年を迎えられました。『お客さまに育てていただいた』という思いは強く持っています」と伊東社長は感謝の言葉を強調した。

 「お客さまは、サービス業に例えるなら“5つ星”。そのお客さまに製品を買ってもらうためには日々、努力を積み重ね、日々研鑽しステップアップする必要があります。当社も、これまでの積み重ねで星1つくらいはいただけると自負していますが、それはつまり期待と責任が増すことでもあります。中国・福建省の協力工場にも『伊東板金の製品として自信をもってお客さまに提供できる製品をつくれるようになってほしい』と伝え、技術指導も行っています」。


 “プロセス管理”の重要性

▲ブランク工程の主力、棚・TK(テイクアウトローダー)・PDC(パンチ・ダイ自動交換装置)付きのパンチングマシンEMZ-3510NT
 同社は1996年にISO9001を取得。板金サプライヤーの中では異例の早さである。進取の気風著しい伊東社長は、生産体制の面でも、職人の技量に頼ったモノづくりから、加工マシンやソフトウエアを最大限に活用したモノづくりへのシフトを積極的に進めてきた。

 「以前は“技術”で製品の品質が保たれていましたが、今重要なのは“プロセス管理”です」と伊東社長は語る。「アマダが推奨するVPSS(Virtual Prototype Simulation System:バーチャル試作システム)のおかげで、板金工場のプロセス管理は大幅な進化を遂げました。“技術”が必要なのは初回だけ。当社はリピート率が90%と高いので、2回目以降のリピート生産でどれだけ効率良く製品をつくれるようにするかという“プロセス管理”が重要になってきます。また、“技術”と一口に言っても、いわゆる“勘”や“コツ”ではなく、経験という蓄積されたデータに基づいたものでなくては意味がありません。その意味でも、社員個々のスキルと経験をデータとして社有化するVPSSの功績は大きいと思います」

 独自の生産管理システム「I-SIS」

▲SDDからブランク加工データを呼び出し、APELIOV-255EcoNTで加工する
 同社は1990年代半ばから、図面レス化に取り組んできた。

 「昔はお客さまから組み図で受け取り、バラシは当社の役目でした。バラシ・展開の後、生産技術が当社独自の『卍絵』という簡単な加工図を描いて、現品票に入れ込みます。現品票には『親カンバン』が付いていて、親にあたる製品が、いくつのパーツで構成されているかが記されています。ですから、パーツひとつひとつに図面を添付する必要がなく、溶接・組立工程で組み上がった後の図面が1枚あれば良いことになります。当社はこの取り組みを1990年代半ばから紙ベースで始め、2000年代に入ってからはコンピュータ上で行えるようになりました」。

 2000年からは得意先の発注システムと連携した独自の生産管理システム「I-SIS」を本格稼働。「卍絵」と「カンバン」を活用した図面レス化の取り組みがコンピュータ上でできるようになった。

 得意先からEDIで受注すると、生産管理システムに自動登録される。「カンバン方式」を採り入れ、JIT生産に対応しており、納期からリードタイムを逆算して、着手予定日には自動的にカンバンが発行される。

このシステムを利用した改善の取り組みは高く評価され、メインの得意先からは「生産改善コンクール」の優秀賞を受賞している。

 “工程結合”により工程を単純化、進捗管理も実現

▲ネットワーク対応型のHDS-8025NT 2台が主力の曲げ工程
 さらに、工程が多岐にわたる板金加工の“工程結合”に取り組み、板金の生産プロセスを@穴あけ、A曲げ、B溶接の3工程に集約した。

 「一口に穴あけと言っても、パンチング、タップ、カシメ、バリ取りなどが含まれます。あまり細かく分けても仕方がないので、3工程に分けて工程間に関所を設け、工程内の作業がすべて終わらないと次工程に進めない仕組みになっています。現在は大雑把に、穴あけ2日、曲げ1日、溶接3日で工程を組みます。各工程では“着手”の記録を取り、最後の出荷時のみ“完了”の記録を取ります。それで必要十分の情報は確保できます」。

 「ODM」を目指す

▲HDS-8025NTのAMNC/PCでSDDから曲げ加工データを呼び出して加工する
 これまで、IT化とネットワーク化を他社に先駆けて導入し、生産プロセスの改善を推進するだけでなく、海外調達による供給体制の見直しにも早くから取り組んできた伊東社長。

 今後の展望については、「国内ではサービス業やスマート性、ホスピタリティといった要素を備えた企業が生き残ると考えています。当社も板金加工と組立を基本としていますが、それだけにはこだわりません。
海外調達ですでに着手している商社的機能や、海外に出た仕事を取るための仕組みづくりといった新しいビジネスに展開する可能性があります。また、ゆくゆくは自社で仕様まで決め、設計・製造を行うODM※にまで対応できる企業になりたいと考えています」と語っている。

 得意先へのサービス精神をベースに、多方面にわたる取り組みを絶え間なく実践し続ける同社の飛躍に期待したい。


※ODM
相手先のブランド名で製造することをOEMと呼ぶのに対し、設計から製造までを手がけることをODMと呼ぶ。OEMでは製造する製品の仕様や設計を相手先が決定するが、ODMでは設計から製品開発を行う点が異なる。
 
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