IT活用インタビュー
 
ネットワーク化とISO 遵守により業務拡大するフィリピン工場

−日本の持つ技術力により現地工場の生産技術が向上−
HDS-1303NT、FBD V -8020NT などが並ぶ曲げ工程(日本工場)
株式会社岡部二光製作所
代表取締役 坂口 良子
住所 埼玉県深谷市岡2943-2
TEL 048-585-3361
設立 1968 年(1955 年創業)
従業員数 68 名
業種 精密板金加工、プレス加工、金型の設計・開発
URL http://www.okabeniko.co.jp/
   
会社経歴

1955 年、現会長の坂口幸二氏が岡部二光製作所を創業。1968 年に(株)岡部二光製作所に法人化。 1979 年、U.S. アマダで開発したコンピュータ制御のパンチングマシンを他社よりもいち早く導入。 塗装・精密加工部門などを増強した後、1990 年に板金加工部門の新工場を増設し、自動化加工ラインを設置。 1994年、フィリピンに工場設立。国内・フィリピンともにネットワーク化を推進し、業務の効率化を図る。


主要設備
● パンチングマシン:EM-2510NT+ASR-48M
● ベンディングマシン:HDS-1303NT、FBD V -8020NT/5012NT × 各2 台
● サーボプレス:SDE-1522 × 2 台
● 2 次元CAD/CAM:AP100 など
 
 研究員から経営者へ

▲(株)岡部二光製作所の本社外観
 同社の創業者であり現会長でもある坂口幸二氏は、若い頃の自身の経験や同社が歩んで来た道のりなどについて、今昔を知る者ならではの貴重な話を聞かせてくれた。

 「20 〜 30 歳の頃(1940 年代後半)、私は国鉄の技術研究所に7 年間ほど勤めていました。今振り返ると、ここで学んだことや培った人脈が、その後の仕事に大きく影響しました。1953 年、私が川口市に二光製作所を創業し、兄の指導を受けていました。そして、1955 年、岡部町(現深谷市)に別会社として岡部二光製作所(当社)も創業しました。当時からお付き合いのある得意先とは、今でも良い関係を続けています。創業してから64 年、様々なことを乗り越え、今では68 名の従業員を擁するようになりました」と、懐かしそうに、また楽しそうに語る。
 日本の本社工場は板金加工・金型製作・プレス加工に精通

▲ブランク工程の主力。棚付きのパンチングマシンEM-2510NT

▲ネットワーク対応機はすべて立体運用でプログラム
 同社の事業は大きく分けて、板金加工、金型製作、プレス加工を柱としている。加工材料はSPCC やSUS430 など。板厚は、微小部品向けに0.25 〜 1.6oの薄板を扱い、精密加工を得意とする。板金加工は、抜き・曲げ・塗装・組立と一貫生産にも対応する。また、機械加工では板厚0.1o台の微細な加工も得意としている。

 「創業当初は、プレス金型の加工をしていましたが、得意先との兼ね合いで板金加工へと移っていきました。リピート率は電気部品メーカーからの仕事が高く、信号機のメーカーからの新規とリピート比率は均等です。当社は鉄道信号、交通信号などの製造に36 年の実績がありますから、どのような要望にも応えていきます」と力強く語る。

 JETRO からの依頼でフィリピン進出

▲昨年10 月に導入したHDS-1303NT
 同社は、1994 年にフィリピンに製造子会社を設立している。そのきっかけは取引メーカーの海外移転やコスト削減のためではない。

 「1960 年代の話になるのですが、当時知り合ったフィリピンと太いパイプを持つ商社の方に、2 度ほどフィリピンに連れていってもらったこともあり、フィリピンの将来性に関心を持っていました。フィリピンの印象は、国にも人にも元気があるということと、勤勉な国民性を持っているということです。ですから、フィリピンは、がんばり甲斐のある土地柄だと思います」。

 「1992 年にJETRO(日本貿易振興機構)より、フィリピンに製造子会社を設立し、精密加工(金型製作・プレス加工など)を指導してくれないかという依頼がありました。そこで2 年間の調査期間をもらい、フィリピンに進出している企業を30 社程調査し、1994 年に進出を決断しました。設立場所は、フィリピン政府が開発した『カビテ経済特区』という工業団地内です。設立当初の従業員数は、日本からの技術者1 名を含む12 人でしたが、当社の進出はフィリピン政府からの要望でもあったので、進出時には政府を挙げて歓迎してくれました」。

 日本からフィリピン工場への業務移管はゼロ

▲同社のフィリピン工場創設時に開催されたフィリピン政府主催のWelcome Party
 進出の話だけではなく、フィリピン工場の仕事の受注方法も、あまり類を見ない。設立からの4 年間、同社は日本から持ち込む仕事はもちろん、現地日系企業からの仕事も受注しないという完全に自主独立した運営を当初から行っている。

 その点を会長に聞くと、「フィリピン政府の後援があったこともあり、ドイツやアメリカの企業から金型関連の仕事を受注していました。当時のフィリピンでは、当社が導入したマシニングセンタなどは新しい設備でしたから、その点も新たに仕事を受注する上ではPR ポイントになったと思います。そして、設立から2 年後、フィリピンに進出していた日系企業から援助・アドバイスをもらい、金型加工からプレス加工へと仕事をシフトしていったことで仕事の幅が広がりました。プレス作業は2 人1 組で対応するため、新たに従業員を50 人程採用しました。その後も増え続け、現在の従業員数は約200 人程です」。

 2000 年には、アマダ製のベンディングマシンやパンチングマシンARIES-245 を導入して、板金加工の仕事を始めた。以後、日系企業から受注する板金関連の仕事も増えていった。現在の仕事の比率は、板金加工50%、金型25%、プレス加工25%。バランス良く手がけ、業容も拡大している。

 ネットワーク化と設備投資により業務拡大

▲同社のフィリピン工場外観
 1994 年に金型製作から始め、ネットワーク対応も設備も決して十分とは言えなかったフィリピン工場も、現在は最新設備とネットワーク対応が当たり前となっており、ゲーム機械関連の仕事も手がけ、勢いに乗っている。

 ネットワーク化への大きな転機は、2006 年ころにフィリピン工場が自ら出資して、ネットワーク対応型パンチングマシンEM-2510NT、ベンディングマシンFBD V-3512NT/8025NT、2 次元CAD/CAM AP100 を導入したことだった。現在ではすべてAP100 でCAD データを展開・CAM 割付を行い、工場内に4 台あるネットワーク対応型ベンディングマシンでデータを呼び出して、加工を行っている。そこへ至るまでにはよほど丁寧な技術指導などを行ってきたのだろうと思い、会長に聞いてみると、「ほとんど技術指導などはしていません。彼ら自身が失敗しながら、貪欲に学んでいるんですよ」と言うから驚きだ。

 2011 年2 月には工程統合マシンLC-2012C1NT も導入し、さらなる効率・高品質化を目指す。坂口会長は、現地のフィリピン人スタッフについて「勤勉ということもありますが、コンピュータやネットワークに対しての理解が早く、とても優秀です」と評する。

 ISO により5S が徹底、効率的・衛生的な工場へ

▲2011 年2 月に導入した工程統合マシンLC-2012C1NT(フィリピン工場)

▲フィリピン工場で製作した板金加工製品
 フィリピン工場には、最新設備とネットワーク対応だけでなく、国際的な品質管理であるISO9001 を取得しているという大きなPR ポイントもある。

 認証取得は2005 年。坂口会長は「日本の本社工場では、お客さまの厳しいQ,C,D 要求に対応するため、設備投資に力を入れてきましたが、事業を拡大しながら少しずつ経営基盤を積み上げている途中でISO9001 による品質管理の標準化を徹底的に行いました。海外で仕事をする上で、ISOの取得は必須と考えていました」と、国際社会で製造業を発展させるための最善の対策を採った。

 ISO 取得で期待できるメリットは、同業他社との差別化、企業のイメージアップやムダの排除によるコストダウン、社員教育などによる社員のレベルアップやモラル向上など。
「昔は、工場内にゴミが落ちていることもありましたが、現在ではそんなことはありません」と、ISO 取得が効果的に作用しており、ISO で決められた品質基準を遵守しているのがうかがえる。

 また、ISO 取得の効果で不良在庫の一掃へ向け、従業員たちが自主的に写真付きの現状レポートや改善案などを工場内に貼り出しているそうである。

 フィリピン工場の完全独立に向けて

▲フィリピン工場で製作した板金加工製品

▲ネットワークを活用し曲げ加工を行うフィリピン工場のスタッフ
 日本の本社工場とフィリピン工場との間はインターネットによりネットワーク環境・設備が整っており、様々な受注案件に対応できるようになっている。お互いは良好なパートナー関係となっている。

 そのことについて坂口会長は「彼ら自身の力で完全に独立してもらいます。これはフィリピン工場の設立当初からの方針です。ですから、今後も日本工場から中古機械・設備などをフィリピン工場に送るということはしません。そういったことをすると、モチベーションにも影響します」と、ぴしゃりと言い切り、両者が自立するためにすべきことを見据えている。

 日本の銀行から融資を請け、自主自立に向けての力強いエネルギーを持つフィリピン工場。一方で長年培った技術力と信頼で事業発展する日本本社。同社の経営陣には、それでよしとする考えや、慢心する気持ちはない。これからも相互補完しながら成長していくことを、取材を通じて確信した。

 
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