著名者インタビュー | |
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| 2003/1-2 |
経営革新の最終兵器「SCM」戦略の方向性
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株式会社日本総合研究所 研究事業本部主任研究員 西村 克己(にしむら かつみ)氏 |
株式会社日本総合研究所研究事業本部主任研究員(人事部兼務)。日経ビジネススクール講師。 1982年、東京工業大学経営工学科大学院修士課程修了後、富士写真フイルム株式会社に入社し、経営効率化推進室に配属。 90年に日本総合研究所に転じ、現職に。 現在、経営戦略、IT戦略、経営革新、業務改革、プロジェクトマネジメント、マネジメント研修などを専門分野とし、民間企業の経営コンサルティングに取り組む。 著書に、「図解:サプライチェーンマネジメント早わかり」(共著/中経出版)「よくわかるITソリューション」(日本実業出版社)「よくわかる経営戦略」(日本実業出版社)「成功するアイデアを生む『超・思考力』入門」(日刊工業新聞社)など多数。 |
経営革新の最終兵器「SCM」戦略の方向性 |
バブル崩壊以降、マーケット構造は顧客主導型へと大きく転換しました。つくれば売れる時代は終わり、消費者が本当に欲しいものだけを買う時代になったのです。こうしたなか、供給サイドがアライアンスを組み、情報を共有化することで、トータルとしての在庫を減らし、ローコスト運営を目指す「サプライチェーンマネジメント(SCM)」戦略がにわかに脚光を浴びるようになってきました。インターネットが加速度的に普及するなか、SCMは経営革新の最終兵器ともいわれています。そこで今回はSCMとは何か、その誕生の背景や経営上のメリット、具体的な導入事例などを紹介しながらその方向性を明らかにするとともに、中小製造業が取り組むに当たっての経営上のヒントを示すこととします。
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最も大切な価値は顧客から見た価値 |
SCMとは商品開発に始まって資材・部品調達、製造、配送、さらにはアフターサービスを含めた販売まで、商品が顧客(消費者)に届くまでの一連のサプライチェーン機能全体を最適にマネジメントする手法のことをいいます。その構成メンバーの代表格がサプライヤー、メーカー、卸売・物流業者、小売業者です。経営学者のマイケル・E・ポーターはこの供給サイドのつながりを価値連鎖(バリューチェーン)と定義づけています。原材料が加工され、それが商品として顧客に届くまでの間に入っている企業は、何らかの価値を付加することで連鎖しているからにほかならないからです。
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サプライチェーン全体の最適化を目指す |
しかし、バブルがはじけ、一気に不況のトンネルに突入しました。つくれば売れる時代にピリオドが打たれ、市場にはモノがあふれるようになります。安いから買うということもなくなり、衝動買いも激減、財布のヒモは堅くなり、欲しいものだけを買う時代になりました。つまり賢い消費者が増え、顧客主導のプル型市場が形成されるようになったのです。 その結果、売れるモノはトコトン売れるが、売れないモノは値引きしても全然売れないという二極分化現象が顕著になってきました。つまり「売れ筋商品」と「死に筋商品」とが激しく乖離していくようになったのです。しかも商品のライフサイクルはますます短くなり、売れ筋商品もすぐに死に筋商品となるというケースも良く見受けられるようになりました。バンダイのかつてのヒット商品「たまごっち」などはその好例でしょう。人気がまだまだ続くと思い込んで大量生産したものの、当初の売れ行きほどは伸びず、結局、在庫の山を築くことになってしまったわけですからね。会社にとっても大赤字のお荷物となってしまった。この事例は一つの他山の石となったといえます。 かくしてこうした状況下においては、サプライチェーンサイドとしては売れるモノだけをきちんとつくり、売れないモノは徹底的につくらないと着想するようになったのです。しかも売れ筋商品については欠品なくタイムリーに補充していくことも大切な要素として指摘されるようになりました。要は余剰在庫はリスクとなるから一切抱えず、必要なときに必要なモノをスピーディーに供給できる効率的な仕組みを整えるという発想が必要とされる時代になってきたのです。そのためには、顧客の視点を持ちながらサプライチェーンをトータルでマネジメントし、全体の最適化を図っていくことが肝心になってきました。それがSCMが誕生するに至った最大の要因といえるでしょう。
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インターネットの普及で戦略展開の基盤整う |
しかしそこには一つの大きな問題が横たわっていました。SCMを成功に導くためには、参加企業同士の情報共有化や在庫の共同監視が欠かせないのですが、従来そうした土台を形成することが困難だったからです。POSデータといった販売情報や流通を含めた在庫情報をサプライチェーン全体で共有化する環境が整っていなかったというわけです。その意味で大きかったのが、ここ数年のIT(情報通信技術)の進展によるインターネットの普及でしょう。これにより、各企業では革新的に情報インフラの整備が進み、会社の垣根を超えたリアルタイムのデータ通信や巨大なデータベース構築が容易にできるようになったのです。こうしてSCM戦略展開の基盤がようやく築き上げられることとなりました。まさにITの進展なしにSCMの存立はあり得なかったといえるでしょう。例えば、アサヒビールのスーパードライは生産後3日以内で商品を店頭に並べるというフレッシュローテーション方式が一つの売りとなっていますが、これなどはインターネットの発達なくしては実現できなかったシステムといっても過言ではありません。SCM戦略がIT時代の経営革新の最終兵器とされる所以です。
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SCMをベースとした事業改革が重要な時代に |
さて今度は実際問題としてどんなSCMへの取り組みがなされているのか、見ていくことにしましょう。 総合電機メーカーの日立製作所ではPC事業部において完成品在庫の削減や受注から納品までのリードタイムの短縮、さらには納期厳守を目的に、生産管理プロセスや情報システムの改革を推進、自社開発のSC管理ソフトを使用しながら、従来は月次であった販売や出荷計画のサイクルを週次に変更するとともに見込み生産から製品在庫を持たない受注生産に転換するというSCM戦略を展開しました。その結果、完成品在庫をほぼゼロにすると同時に受注から納入までの期間も平均1か月要していたところを最短で5日(生産リードタイム3日、配送2日)に短縮することに成功したのです。 また、スーパー小売りの平和堂では日清食品や味の素ゼネラルフーズなど加工食品メーカー10社との間で日本IBMの連続自動補充システムを共同で採用、在庫調整と配送コストの削減、納品率の向上を目的としたSCM改革に着手しました。これにより、配送センターにおける在庫と各店舗への配送コストをそれぞれ20%削減するとともに店舗への納品率をほぼ100%にすることを可能にしたのです。 さらに、呉服小売の鈴乃屋では顧客からの注文に対して短期間で商品を提供しようという目的から縫製メーカーや糸問屋、染色メーカーなどと着物の発注状況、売れ筋情報、反物の在庫情報などを共有するSCM戦略を展開しています。これにより、注文から納品までの期間を140日から40日という大幅短縮を実現するとともに、一部の着物単価を10万円引き下げることも可能にしているのです。 このような成功事例が示すように、SCMをベースとした事業改革は今後の経営戦略上の重要なオプションの一つになっていくことは間違いありません。
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Win‐Win連合に積極的に参加する姿勢を |
それでは最後に中小製造業の皆さんがSCM戦略に取り組んでいくうえで何が大切なのか、そのポイントをいくつか示すことにしましょう。 まず最も肝心カナメなことは自ら立ち上げるのではなく、大手のSCM戦略に積極的に手を上げて参加していくという姿勢を表明することです。SCMはシステム構築だけでも数十億円という莫大なコストがかかるうえに、チェーン全体をオーガナイズしていく機能が必要とされます。したがって強い体力と影響力のある大手企業が有利なのです。しかも世界レベルでの競争が激化するなか、大手同士でも利害が一致すれば平気で手を組む時代、SCMとて例外ではないのです。強者同士が連合する、いわゆるWin‐Winの関係が強化されてきています。そうした勝ち組の仲間に取り残されないうちに早く入れてもらうことが賢明な選択といえるのです。 そのためにはもちろん、セールスポイントとなる確固たる技術を装備している必要があります。ソニーの小型化技術、ホンダの静かなエンジンというように、会社としてすぐにアピールできるコアコンピタンスを確立しておくべきなのです。またSCM戦略に参加するための体制づくり、すなわち情報インフラの整備も早急に進めなくてはなりません。ホームページの開設は言うに及ばず、情報を共有化するための社内外のネット環境などを充実させなくてはならないのです。本格的に推進しようと思うならば、」ITに強いCIO(情報統括担当役員)を一人置くのも一つの手でしょう。 いずれにせよ、大手でも1社では心もとない時代です。中小製造業の皆さんも事情は同じはず。SCM戦略にしても成功を収めるには強力なサプライチェーンプレーヤーを確保する必要があるのではないでしょうか。したがってチャンスがあれば、意欲的にサプライチェーン連合に参加する姿勢を示していってもらいたいと思います。
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