産業活性化の鍵にぎるTLO |
新たな産業活性化の呼び水として最近"TLO"という組織が注目を浴びるようになってきています。TLOとはTechnology
Licensing Organizationの略で、日本語で"技術移転機関"の意味。大学などに埋もれている研究成果を発掘、実用化できる発明を特許化するなどして民間企業に技術移転し、そこで得られた収益の一部を次の研究資金として大学などに還元する役割を担うのが主な業務で、いま盛んに言われている産学連携を促進させる、いわばパイプ役として関係者の寄せる期待は大きいものがあるのです。
先進地の米国ではすでにビジネスとして成立しており、多くのベンチャー企業育成に貢献するなど、その市場規模は年間400億ドルで、27万人の雇用を創出しているといわれています。わが国でもこれに倣い、TLO活動を円滑化するための環境整備が進んでおり、実際、新技術導入を目的に産業界でも活用するケースが増えてきているところなのです。中小製造業にとってもこのチャンスを生かさない手はありません。TLOを窓口に従来アクセスする機会に恵まれなかった大学から技術情報を手に入れ、新製品開発などにつなげていく好機だからです。
そこで今回は産業活性化の鍵を握るTLOの仕組みや現状に加え、中小製造業にとってのTLOのメリットや利用する際の留意点などについて解説することとします。
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技術移転促進のパイプ役 |
近年、日本の産業界を取り巻く環境は非常に厳しいものがあります。特に製造業はバブル崩壊後の長い景気低迷に加え、低価格競争が強みの中国・アジア勢をはじめとするグローバル競争で苦境に立たされているのが実状です。したがって新たな技術開発や新産業創出といった課題解決なしに経済再生への道筋を描くことはできません。
こうしたなかで、一つのキーワードとして浮上してきたのが産学連携です。具体的にいえば、大学の知的資源と企業の研究開発ニーズを的確に結びつける枠組みづくりが必要との機運が急速に盛り上がってきたのです。
確かに以前から産学連携の動きはありました。しかし大学研究者に寄付金を提供する代わりに特許を含む研究成果は固有の企業に属するといった従来の手法は産業全体の活性化という点では必ずしも好ましい結果を生み出していたとは言い難いものがありました。多くの研究リソースが集中している大学から広く産業界に向けた技術移転を阻む弊害となっていたとさえ、いえなくもないのです。
そこで、こうした状況を打破するためには企業と大学の責任と役割を契約という形で明確にすることが不可欠との考えが主流を占めるようになってきました。これにより、法制化への流れも加速して、1998年には「大学等技術移転促進法(TLO法)」が施行されたのです。TLOをパイプ役とする技術移転の基本ルールが確立されたわけです。
TLOの大きな任務の一つは大学や高専、国の研究機関など提携先が持っている研究成果のなかから、事業の実現性や特許化の可能性の高いものを発掘したうえで特許を受ける権利を譲り受け、TLO自身で出願し、特許化を行うというもの。
またこれらの特許権などを広く情報提供し、その技術を求める企業を探し出すのも重要な役割の一つといえます。うまくマッチングした場合は、企業側とライセンス契約を結び、新製品開発や新規事業などで得られる収益の一部を実施料という形で企業から返してもらい、大学や研究者に還元するという仕組みになっているからです。
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企業との契約増で軌道に |
TLOはその活動範囲から大学などの教官個人あるいは公立、私立大学などの特許権を対象とする承認TLO(文部科学省・経済産業省が承認)と、大学・国研究機関などの国有の特許権を対象とする認定TLO(文部科学省が認定)の二つに分かれますが、一般にTLOという場合は承認TLOのことを指します。
設立形態としては、@学内組織(大学と法人格が同一の場合)、A学外組織(大学と法人格が同一でない場合)、B株式会社・財団法人・単数大学・複数大学の協賛などがありますが、その性格上、大学関係者が設立するケースがほとんどです。もっとも一般の企業でも承認や認定を受けずに活動することが可能なことから、民間で独自機関を設ける場合も少なくありません。
現在、TLOの数は全国で承認TLOが27機関、認定TLOが2機関となっており、形態としては収益を目的とする株式会社が増えてきています。その意味では技術移転に関するビジネス手法が各機関の間に広く浸透してきている証左ととれなくもありません。
実際、TLOの活動はこのところ活発化の様相を呈してきています。承認TLOを対象とした国のアンケート調査(02年3月末現在)において、TLO法施行以来、TLOが大学などに代わって行った出願総数が2086件(国内2043、海外43)で、特許保有総数も334件(国内318、海外16)にものぼっていることが明らかです。企業と特許権譲渡契約などを結んだ実施許諾件数(オプション契約含む)も急速に伸びており、98年からの累計で356件にも達していることが分かりました。
その結果、技術移転にともなうライセンスフィーも確実に増加、承認TLO27機関の平均収入は2811万9000円(日経産業消費研究所の調べ)と、ビジネスとして成立しつつある状況が浮き彫りにされることとなりました。
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中小でも着実な成果を生む |
こうしたことから産業界でもTLOの存在は無視できなくなり、積極的にアプローチするケースが目立つようになってきました。製造業でも大手ばかりではなく、中小の間でもアクセスする企業は次第に増えてきており、着実に成果に結びつけているところも出てきているのです。
一つの事例を挙げることにしましょう。兵庫県宝塚市に本拠を置く理学療法用機器メーカー、チュウオーは昨秋地元のTLOとライセンス契約を締結、明石工業高等専門学校の教授がゆらぎの理論を取り入れて確立した信号発生法を磁気温熱治療器の開発に応用、実用化にこぎ着けました。同社ではそれまでも磁気によるマッサージ効果や温熱を使った医療用器具を開発してきましたが、発生する信号にゆらぎを使う今回の治療器は心地よさが増すほか、長時間治療も可能になるとしています。現在は病院向けの機器に搭載していますが、反響によっては家庭用にも展開したいと、期待のほどを覗かせているのです。
一方、中小支援に特化した民間主導のTLO設立も盛んになってきています。代表例が「テクノ・ヴィ・アイ・ビー」です。凸版印刷やベンチャーキャピタルなどが主体となってこの8月に発足させたもので、中小が抱える技術的な課題を発掘し、関連分野の大学の研究者に取り次ぐというスタイル。現在の大学主導とは一味違った切り口で産学連携を進めようとしていることから、関係者から早くも高い期待が寄せられています。
このように中小製造業がTLO活動に参加する場は急速に広がってきています。もとより、TLOの存在はこれまで中小ではなかなか難しかった大学との交流を促進させるというメリットをもたらすものです。何よりもその技術を活用することで、社内だけでは困難だった新製品開発につなげるなど、企業活性化の道を開くことが可能となるのです。
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技術シーズにも目配せを |
アプローチの方法としてはまずはTLOのHPにアクセスしてみることです。そこでは各機関が保有している特許や技術情報を見ることができます。会員制のTLOなど一部情報しか開示されていない場合もありますが、すべての技術情報をオープンにしているケースも少なくありません。そこで関心があれば、気軽に問い合わせし、詳しい中身を聞き出すというのが定石となります。
コンタクトをとる相手としては技術情報の専門家である特許流通アドバイザーが最適です。その窓口を通して必要であればライセンス契約を結んだり、技術シーズの場合はあるいは共同研究を働きかけるという流れになるでしょう。
またアクセス法としてはTLOが定期的に開催している説明会に参加してみるのも一つの方法といえます。そこにも特許流通アドバイザーが必ず出席していますから、積極的に接触して情報を入手するといいでしょう。
いずれにしろ、TLOを介して大学に眠っている技術を幅広く知ろうというスタンスが肝心です。特許だけにこだわらず、技術シーズにも目配せする必要があります。そのなかに自社の新製品に生かせる技術が絶対に存在しているはずだからです。特に技術シーズを共同で開発する際には、国から資金面で援助するという制度もありますから、有効活用するのもいいでしょう。
ただ基礎研究を旨とする大学の技術は製品化においてまだまだ使いづらいというのも事実です。しがってTLOとしては技術評価の眼をいっそう養い、実用性の高い技術についての特許出願や情報開示を行っていくことも肝要といえるでしょう。
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