著名者インタビュー | |
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| 2003/1-2 |
自動車産業における
グローバル化と環境技術の動向 |
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東海学園大学教授 下川 浩一氏 |
1930年生まれ。57年九州大学経済学部卒。62年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。69-99年法政大学経済学部教授を務める。その間(77−79年)ハーバードビジネススクール留学。99年4月より東海学園大学経営学部教授に。法政大学名誉教授。担当分野は自動車産業論、国際経営論など。 主な著書に『自動車産業脱成熟時代』(有斐閣)『日米自動車産業攻防の行方』(時事通信社)『世界自動車産業の興亡』(講談社新書)など多数。 |
自動車産業におけるグローバル化と環境技術の動向 |
WTO加盟により、世界の自動車メーカーによる激しいメガコンペティションがいよいよ本格化してきたのが中国。日本からは最近になって日産自動車が現地大手メーカーと包括提携し、国内自動車メーカーの間でも12億人の巨大市場を巡っての戦いが熾烈化の一途をたどっていくのは必至の状況となってきました。 1990年代後半の通貨危機から脱出し、急テンポで経済が回復してきている東南アジアに対しても日系自動車メーカーの投資が再び盛り返してきているのが現状。なかでも国を挙げて外資導入を図っているタイにおける動きが活発化の様相を呈しています。 中国・アジアを中心としたグローバル化のうねりが広がる一方、自動車産業は以前にも増して低公害車の開発・普及に力を入れるようになってきています。その象徴が燃料電池自動車。実用化にしのぎを削ってきたトヨタ自動車とホンダは2002年12月に政府向けにリース販売を開始して、世界で初めて燃料自動車の実用化に漕ぎ着けたという点では特筆に値すべき出来事でしょう。 こうした自動車産業全体の流れは中小製造業にも大きな影響を与えるのは必定です。グローバル化、環境技術への対応を意識した経営革新はもはや避けられない状況になってきたといってもいいでしょう。 そこで今回はグローバル化、環境技術への対応という二つの側面から自動車産業の現状を伝えたいと思います。
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日系企業も本格進出。中国市場を巡って火花散らす |
自動車産業のグローバル化という点で、いま最も注目を集めているのは中国でしょう。最後に残された巨大市場であり、WTO加盟により開放政策を促進して、外資が進出しやすい環境が整備されつつあるからです。近年の著しい経済発展で、上海を中心とした東部沿岸部では富裕層も急増し、マイカー需要が著しく伸びていくことが約束されているのも世界の自動車メーカーにとっては大きな魅力といえます。
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東南アジアではタイ。将来市場としてロシアも |
中国への投資が熱を帯びる一方で、通貨危機を乗り越えた東南アジアも再び脚光を浴びつつあります。自動車販売台数も急速に回復してきており、ピーク時の96年と同じ150万台規模に戻るのも時間の問題とされています。 そうしたなかで注目株はタイでしょう。政府自ら自動車産業育成の一環としてさまざまな税制優遇措置を設けて海外からの直接投資を促す政策をとっているからです。通貨危機以降、輸出にも力を入れるようになり、好調に推移しているともいわれています。現在、オーストラリア、ニュージーランドのほか、中東向けに輸出していますが、輸出先をさらに増やしていく構えです。04年には生産台数も年間100万台を達成、うち60万台が国内販売、40万台を輸出に振り向けると予想されています。 これにともない、海外自動車メーカーのなかには生産設備をタイに集中させ、アジア市場向け輸出を加速させようとしています。日系メーカーも工場ラインの見直しや新工場建設などに着手、増産体制に向けた動きが活発化してきているのが現状です。 世界にもっと視野を広げてみると、今後の市場として期待されるのがロシアです。いまやサウジアラビアと並び称されるほどの産油大国で、石油輸出による外貨獲得で経済的にも安定してきています。 こうしたことから、将来市場としてロシアもかなり有望視されるのです。具体的な動きはまだないものの、ポーランド、チェコなど、このところ日系メーカーの東欧進出が相次いでいます。それがロシアを見据えての橋頭堡づくりではないかと踏んでいるのです。 当面は東欧域内を中心とした販売に徹するのでしょうが、それだとマーケットとしては小さい。したがっていずれはロシア向け輸出に力を注いでいくことになるだろうし、さらにその先の構想としてはロシアそのものに生産拠点を設けるようになっていくでしょう。ロシア側としても中国と事情は同じで、国産メーカーを育てたいとの意向があるはずです。
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弾みつく低公害車の開発。燃料電池車も初の実用化 |
自動車産業の現状を概観するとき、環境という側面からのアプローチも避けては通れません。各社ともに小型軽量・低燃費を意識したコンパクトカーの開発・普及に精力的な取り組みを見せていることからも明らかでしょう。
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技術移転を意識した戦略。環境対応では技術の再評価を |
このように自動車産業においてはグローバル化、環境技術への対応ということが戦略上の大きな要諦になりつつあります。中小メーカーにとってもこの両方を意識した経営が以前にも増して緊急の課題として浮上してきているのは間違いないところです。そこでどうした対策が必要か考察してみると、まずグローバル化については部品の現地調達が加速している折、海外進出に向けた動きに拍車がかかっていくのは自明の理といえます。ただし、しっかりとした戦略なしには成功はおぼつきません。
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