著名者インタビュー | |
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前ページ|次ページ | 2003/9-10 |
電子部品産業の現状と今後の方向性
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日本総合研究所 主席研究員 新保 豊氏 |
東京生まれ。筑波大学理学系(物理)大学院修了後、株式会社日立製作所入社。主に技術・製品開発などR&D従事。その後株式会社日本総合研究所に転身、研究事業本部ネット事業戦略クラスター長(主席研究員)などを経て同事業本部ICT経営戦略クラスター長(主席研究員)に。関西学院大学大学院MBAコース非常勤講師(ICT経営戦略)も務める。著書に『日本発MBA 戦略&マネジメント(基礎編)第3章ICTマネジメント』(中央経済社)『ブロードバンド時代の本命 徹底図解光ファイバーのすべて』(PHP研究所)など。 |
電子部品産業の現状と今後の方向性 |
日本貿易会(JFTC)が最近発表した平成15年度の日本の貿易・経常収支見通し(国際収支ベース)では輸出は平成14年度実績より2.1%多い51兆1540億円となり、2年連続で過去最高を更新するとの見方が示されています。牽引役となるのはこれまでの主役だった輸送用機器に代わって電子部品を含む通信・家電機器。前年度比10.3%増の約13兆3800億円にものぼると予想されているほどです。 こうしたデータでも分かるとおり、世界的な電子機器類の需要回復に呼応して電子部品産業の業績は急回復してきています。顕著な例がパソコン市場。平成15年度第1四半期(4-6月)における本体総出荷台数(国内出荷+輸出)は268万4000台(前年同期比105%)と台数ベースでは2年ぶりにプラスに転じたからです。輸出だけに限ると、台数(12万台→16万台)、金額(195億円→222億円)ともに前年度の落ち込みをカバーして余りある伸びで、産業全体が輸出の牽引役と期待されるのも得心の行くところです。 とはいえ、市場環境が変転して止まない時代、足元の景気は復調してきたとはいえ、長期的なレンジでの動きはまた別です。そこで今回は底入れ機運で復調著しい電子部品産業の現状に加えて今後の方向を概観しながら、そのトレンドに関して中小製造業としてはどう対応していったらいいのか、考察してみることとします。
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新三種の神器が牽引役に |
2000(平成12)年4月のITバブル崩壊から3年余り、電子部品の需要がにわかに回復軌道に乗ってきているようです。米国景気が底を打って上向きに転じるなど、世界的に経済環境が好転し始めたのが背景にあります。日本では電子部品メーカー各社が戦略見直しやリストラなどを加速させた結果、益出し可能な企業体質に改善できたのも大きな要因といえます。 市場として活況を呈してきているのが薄型テレビ、DVD、デジカメの"新三種の神器"と呼ばれるデジタル家電分野。液晶を組み込んだ薄型テレビやDVD録画再生機用部品の注文は拡大の一途で、各メーカーとも増産体制の整備を急いでいる状況です。薄型テレビだけでも2002年の市場規模は台数ベースで前年比2倍の130万台に急成長、2003年も160%以上に膨らむと予想されているほどです。関連部品における需要の伸びが顕著なのは大いに頷けるところでしょう。 一方、携帯電話向けも堅調です。直近の2003年5月も携帯電話の出荷台数は400万台強で前年比123.5%と7カ月連続のプラスを記録しているからです。これに牽引される形で部品需要は底堅い動きをしているといえるでしょう。 こうして見てきますと、電子部品産業全体に改善の兆しが広がってきているのは間違いありません。"新三種の神器"の好調が何よりの証拠です。かつて携帯電話が爆発的に普及したようにパーソナル化への流れに乗ることが一つの勝利の方程式だからです。 デジカメもDVDも薄型テレビもパーソナル化というキーワードに見事に合致した商品といえます。だからこそ、急成長しているにほかならないのです。さらにはその動きは必ずや途上国へと波及していくに違いありません。特に中国など未開拓の巨大マーケットが控えているのを考慮に入れれば、電子部品産業の前途は明るいといえるでしょう。
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通信分野はビッグクランチ |
ただ、電子部品産業の需要の大きな柱となっている情報通信分野全体に目を転じると必ずしも動きは活発というわけではありません。周辺分野を取り込んで20兆円規模の市場を形成していた以前ほどの勢いが見られないのです。むしろ市場は縮んでいる様相すら呈しています。 それはなぜか。その中核を担ってきた固定電話の回線交換技術(性能曲線)が需要曲線を超えて必要以上に進化したからです。供給側があまりにもハイエンド(高機能・高価格)化したために需要が追いつかなくなってしまった。ISDNしかり、ATM交換機しかりで、その延長線にある光ファイバー通信もいまだ価格的な問題もあって一般家庭には普及していません。したがってこの旧来のハイエンド技術向け電子部品需要も低迷している状況にあります。 一方、これに代わって台頭してきているのがインターネットに代表されるIP(Internet Protocol)技術。ローエンド(低機能・低価格)ですが、ADSLやIP電話、無線LANといった新たな需要を創出し、最近ではIP放送も開始するとともに近い将来にはIP携帯電話サービスも視野に収めるなど、やがてはこの技術が主流となる可能性が現実味を帯びてきています。ただ、いまのところはまだ揺籃期にあり、ハイエンド技術の収益基盤を取り崩すのみで、ビッグマーケットを形成するまでには至っていません。その意味では現在、情報通信分野は端境期にあり、新たなビッグバンを呼び込む"ビッグクランチ(大収縮期)"のなかにあるともいわれています。すなわち産業的な構造転換の只中で、産みの苦しみを味わっており、市場としては停滞・縮小している傾向が見られるわけです。
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広がるビジネスチャンス |
しかしいずれにしろ、中長期的なレンジに立てばIP技術が主役に躍り出てくるのは間違いありません。ブロードバンドへの流れを念頭に入れれば、その鍵を握る光ファイバーへの需要も高まってくるでしょう。その需要喚起に国策的な手段(特別会社の設立など)が講じられれば、現下の基幹網のインフラとしての活用に加え、一般家庭向けでの活用もさらに現実的になるものと思われます。 こうした新たな通信技術の環境が急速に整備されるのにともない、その基盤上にはさまざまなハードやソフト、システムなどが展開されるようになってくるのは必死です。例えば、前に触れたICチップやICタグを埋め込んだ情報家電(携帯電話端末含む)が続々と登場することになるでしょう。DVDやデジカメあるいはパーソナルテレビもIP技術等を背景にICチップを搭載することで、ユビキタスなネットワーク環境下での利便な情報端末の早変わりすることになります。同時にそれらをリモートコントロールする仕組みや装置(国産の次世代ホームゲートウエイやルーターなど)も、目下NGN(次世代ネットワーク)の一環として次々に開発中です。 そうなってくると情報通信分野を巡って形成される電子機器・部品の市場は莫大なものとなります。先進国を中心にまず需要が喚起され、やがて途上国に波及していくことを想定すれば、これまで以上の需要の広がりを見せるのは間違いないところです。 その意味では電子部品の加工メーカーにとっては大きなビジネスチャンスが目の前に到来しているともいえます。中小製造業の皆さんにとっても例外ではありません。
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身につけたい目利き能力 |
ただし、大きな構造転換期のなかにあってマーケットが混在しているがゆえに、どこにフォーカスすればいいのかよく分からないのが実情だと思われます。またさまざまな複合技術の組み合わせが必要なため、単独では行動しがたいのも事実でしょう。 そこで中小製造業の皆さんにとって肝心になってくるのがまずコア技術に基づく経営戦略とシナリオ思考です。闇雲に経営資源を投入しても非効率。自社の得意分野を明確にしたうえで勝算ありと踏んだ領域にいち早く打って出ることです。 とはいえ、これが簡単にはいきません。得意分野の絞り込みはまだしも、有望な市場と判断するためにはそれなりの目利き能力が必要とされるからです。実は現在、規模の大小にかかわらず日本企業に最も不足している能力の一つがこれなのです。過去に例外なく頭角を現した企業や人材がかいくぐってきた修羅場の経験が皆無に近いからといわれています。したがって一朝一夕にこの能力を身につけることはできません。ひとえに"ボリュームの洗礼"が求められるのです。現在置かれている状況を見ながら、いろいろな戦略を練り、行動してみる。そこでトライ&エラーを繰り返すことで、目利き能力が研ぎ澄まされてくるのです。これを持ったうえで経営判断できるようになればしめたものです。 また得意分野を明確にするということは、同時に不得意分野も鮮明にするということです。したがって自社ではカバーできない複合技術が必要な市場に参入する場合、それだけコラボレーションを組むパートナーも探しやすくなるといえるわけです。特に経営資源に限りのある中小にとっては、市場で競争優位に立つために有効な手立ての一つになるものです。その結果、自らを売手市場として、電子部品の購買側(買手市場)に対する関係の優位性を新たに築き、維持していけるような流れを呼び寄せることがだいじとなります。 繰り返しますが、電子部品産業は広がりの可能性を秘めた前途有望な市場に違いありません。しかし、それだけに競争も激しく、変化も目まぐるしい。こうした厳しい環境のなかで中小製造業の皆さんが目利き能力を身につけ、柔軟なコラボレーションやアライアンス戦略を展開し、勝ち組として名乗りを上げていかれることを大いに期待しております。
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