著名者インタビュー
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2003/11-12
ロボット産業の最新事情
〜ヒューマノイドロボットから産業用ロボットまで〜


社団法人日本ロボット工業会 技術部長
佐藤 公治氏
信州大学工学部機械工学科卒業後、試験機メーカーを経て、1981年に社団法人日本産業用ロボット工業会(現社団法人日本ロボット工業会)に転身。以来、先端的なロボットシステム研究開発プロジェクトの企画・調査、ロボット技術全般に関する調査研究およびロボットの標準化などに携わる。現在は技術部長。2000年にはロボット分野の国際標準化などの貢献により、通商産業大臣賞を受賞。
 ロボット産業の最新事情 〜ヒューマノイドロボットから産業用ロボットまで〜
 最近、家庭用コミュニケーションロボットのほか、エンターテイメントロボット、ヒューマノイドロボットなど非産業用ロボットが社会的に脚光を浴び、研究開発も盛んに行われています。なかには実用化・商品化への動きが見られるものの、ビジネスとして成立しているのはまだごくわずかで、一大マーケットが形成されている段階ではありません。

 ただ、こうしたロボット産業は将来性豊かな市場を形成することは紛れもない事実であり、2010年には3兆円、2025年には8兆円の規模に成長するとの見通しも示されているなど、発展の余地を大きく残しているのは確かでしょう。

 こうした状況下、日本ロボット工業会ではわが国のロボット産業およびロボット研究・教育の現状と課題を踏まえ、すでに長期にわたる技術戦略を策定しています。一方、経済活性化の核としてロボット開発に地域を挙げて取り組む東大阪市や、ロボットの実用化促進に向け特区構想を打ち出している福岡市の例に見られるように、各地でも取り組みが活発化の様相を呈してきているのが実状です。
 そこで今回は、わが国のロボット産業は今後どのように進展していくのか、またそのなかで産業用ロボットはどう進化していくのかを考察してみることとします。

 

 新分野の研究開発盛んに
  わが国のロボット産業は製造業向けを中心に1990年代初めまで順調に推移してきました。しかしその後のバブル崩壊にともなう景気後退と設備投資の低迷により、国内需要は大きく冷え込むことになります。ただ一方では優れた国際競争力をテコに輸出が急増するとともに、IT化の進展により携帯電話やパソコン生産ライン向けの需要が拡大、産業として再び隆盛の勢いを取り戻していったのです。

 その結果、2000年には生産額で史上最高の6610億円を達成することになります。もっとも翌01年にはIT不況による電子部品実装用ロボット需要の落ち込みが響き、前年比40%減の4063億円にまで一気に後退してしまったのです。最近では電子部品需要の急回復や米・アジア向け輸出が堅調で再度上昇気流に乗りつつあるものの、一時期の勢いは見られず、全体的には伸び悩んでいるといえるでしょう。

 こうしたなか、産業用ロボットは期待したほど利益があがらないとの理由もあって、ロボットビジネスからの撤退や事業譲渡が相次ぎ、業界の再編が加速してきているのも事実です。90年代初頭に250社以上あったロボットメーカーが01年には148社に減ったというデータが業界の現状を如実に語っています。

 ただ、産業用を中心として発展してきたロボット技術を新しい分野に応用していこうとする企業の意欲は根強いものがあるのも確かです。最近になって社会的にもクローズアップされてきているエンターテイメントロボットやヒューマノイドロボットなどの研究開発が盛んになってきているのが何よりの証拠です。

 なかには実用化・商品化されている技術もあります。例えば、家庭用の掃除ロボットもその一つ。自走式で、回転ブラシにより床のゴミをかき上げ、吸い込む仕組みとなっています。壁にぶつかると方向を変え、予め貼ってあるマグネットテープを認識することにより、室内の段差などを自動的に感知し、階段から落ちないのも特徴。タイプは違いますが、超音波センサーによりロボットがテーブルや家具などを傷つけないように避けながら掃除するものもあります。掃除を終えると、自分で充電器を見つけて再充電する賢さがセールスポイントとなっているようです。

 

 2025年には8兆円市場に
  カメラを備えた4足歩行の留守番ロボットも登場しています。留守中に不審者の侵入や火災の発生を感知すると、すぐに持ち主の携帯電話に連絡するほか、警備会社に通報したり、大音量で威嚇したりする仕組み。さらに「お座り」や「お手」などのペット機能もついており、当初の限定販売品の50台もほとんど売れたと聞いています。

 とはいえ、こうした非産業用ロボットで商品化され、しかも採算ベースに乗るようなものはまだごくわずか。市場規模として全体の1%にも満たず、いまだ残り99%以上は製造業向けなのです。したがって非産業用は研究開発段階が圧倒的に多く、ビジネスとして成立しているのはほとんどないといった状況といえます。

 しかしながら、わが国のロボット産業はITと同様に産業競争力を強化するうえできわめて重要な分野であることには変わりありません。その意味では、将来的にも成長性豊かな市場なのです。実際、日本ロボット工業会ではすでに長期的なロボット技術戦略を策定し、そのなかで今後有望視される分野を特定、それぞれの市場規模を次のように予測しています。
@製造業分野
  (人間・機械協調生産システム、エコファクトリー、ネットワーク対応工場など)
  ‥‥2010年=8500億円、2025年=1兆4000億円
Aバイオ産業分野
  (自動分析技術、自動合成装置、バイオ工場など)
  ‥‥2010年=900億円、2025年=3600億円
B公共分野(災害の発生観測・予測、災害の発生防止・対処作業など)
  ‥‥2010年=2900億円、2025年=9900億円
C医療・福祉分野
  (予防、診断、治療、リハビリテーション、
  医療施設内の省力化・インテリジェント化、医学教育など)
  ‥‥2010年=2600億円、2025年=1兆1000億円
D生活分野
  (教育、家庭内バーチャルトレーニング、エンターテイメント型リハビリテーションシステム、
  コミュニケーション支援および生活支援システムなど)
  ‥‥2010年=1兆5000億円、2025年=4兆1000億円

 この結果、ロボット産業全体の市場規模は2010年に約3兆円、2025年に約8兆円に膨らむと見込んでいるのです。

 

 IT産業型モデル確立へ
 このようにロボット産業は大きな発展の可能性を秘めていますが、今後は製造業分野だけでなく、生活分野など多岐にわたっていく傾向がさらに強まると考えられます。普及に向けてのインフラや産業構造、技術環境の整備が重要課題となり、そのための大きなキーワードの一つがオープン化です。

 ロボット技術を活用した知能化システムまでを広い意味でのロボットとしてとらえ、その技術の総称をRT(Robot Technology)と定義しています。つまり一定の体裁を整えた従来型のロボットだけでなく、コンポーネントレベルもロボットとして位置づけ、こうした視点に立ってオープン化を推進していくことを想定しているのです。

 例えば、コンピューター・IT産業の展開においては、ユーザー側の多様な目的に合わせてハードおよびソフトのコンポーネントを選択・組み合わせるオーダーメイド事業が確立、今日の成功を呼び込んでいます。その前提としてはコンポーネントやユニットといったハードだけでなく、ソフトにおいても一定の規格のもとでインフラを統一、それぞれが役割分担することで相互供給される仕組みが整っており、こうした分業体制によるオープン化がIT産業発展の原動力となっているわけです。

 ロボット産業にもこうしたIT産業型ビジネスモデルを構築することが望ましいといえます。すなわちオープン化による分業体制を確立し、さまざまなソリューションビジネスを展開していくことこそが、産業の強化・発展につながっていくのです。

 

 マイクロファクトリー登場も
  こうしたオープン化、モジュール化は製造業全般において顕著で、ロボット産業もまたその流れに乗って進展していくものと思われます。生活分野などほかの分野からの技術転用もなされ、ロボットシステムも進化・高度化していくことでしょう。

 ただ、最近話題を集めているヒューマノイドロボットが将来的に製造現場で活躍するようになるかどうかは疑問です。テーブルなどでの作業を想定して研究開発が進められているヒューマノイド型もあるようですが、実現の可能性については現段階ではきわめて低いと言わざるを得ません。

 人間の形をしていることが作業をするうえで実用的かどうかを考えれば必ずしもそうとはいえないからです。例えば移動するだけであれば車輪のほうが圧倒的に有利です。要するに産業用ロボットは製造現場で行う作業目的に適した機能・構造が備わっていれば十分なわけで、そのほうがコストパフォーマンス的にもメリットがあるのです。

 現実的な話をすれば、マイクロファクトリーのほうが近い将来の実現可能性としては高いでしょう。小型工業製品の製造工程のマイクロ化による省エネを目的に現在、研究が進められています。デスクトップサイズほどの挟所空間のなかに、加工、組立、搬送、検査など多数の工程にかかわる機器類を統合化して組み込み、マイクロ製品の加工・組立を行うシステムで、試作品第1号が登場する日が来るかも知れません。

 世界のロボット産業をリードしてきた日本はいまもなお、保有稼働台数で世界トップであるのは紛れもない事実。今後もその優れた技術を活用してさらに大きく発展していくのは間違いないといえるでしょう。