著名者インタビュー
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2005/9-10
ロボット工学最前線
ロボットと対話し技能を育む


名古屋大学 福田敏男教授

1948(昭和23)年富山県生まれ。‘71年早稲田大学卒業、東京大学大学院博士課程修了、工業技術院機械技術研究所主任研究官(現産総研)、東京理科大学助教授を経て、現在、名古屋大学高等研究員教授、名古屋大学大学院教授マイクロ・ナノシステム工学専攻。この間、アメリカエール大学客員助教授、西ドイツシュツッガルト大学客員研究員を歴任。NHKの「課外授業」、「クローズアップ現代」等に出演し幅広くロボットの普及活動も行っている。

 ロボット工学最前線ロボットと対話し技能を育む

 ロボットは常にわれわれに夢を与えてくれる。モノづくりの世界でもマニピュレーター機能を持つツールとして身近な存在だ。そのロボットも進化が著しい。知能化したロボットがモノづくりの現場で活躍する日も遠くはなさそうである。今回は名古屋大学の福田敏男教授にロボット工学最前線の現状をお聞きした。

 世界初 ! ! ロボットを評価するロボット
―― 福田先生がプロデュースした愛・地球博のロボットが話題になっています。

福田 愛・地球博では2010年の実用化を見込んだ接客、警備、清掃、ケア、エンターテインメントなど5分野のワーキングロボットが常時活躍していますが、今回プロデュースしたのはロボットがさらに進化し、2020年には私たちの生活にどのようにロボットが入り込んでいるかをシミュレートしたものなのです。大学や研究機関が製作したプロトタイプのロボット65アイテムを2週間にわたって展示しました。福祉ロボットやメディカルロボット、災害救助ロボット、人にサービスするロボット、人と対話するロボット、さらにはまさに人間のようなヒューマノイドロボットと多様で先端的なロボット工学の成果が集約するものとなりました。そのうちメディカル関係では脳や目を手術するロボットなど8アイテムほどの出展がありましたが、私のところで出したのはメディカルロボットの技量、技巧、スキルを評価するロボットなのです。ロボットの性能を評価するロボット、医師の技量を評価するロボット、いわゆる評価ロボットを世界で初めて出しました。

―― モノをつくったときに、評価基準をつくることは非常に重要なことですね。

福田 そのとおりです。私自身、遠隔操作で人間の脳の中を手術するカテーテルロボット、医師が手術を行う際の支援を行うシステムを開発してきましたが、人体実験を行うわけにいかないだけにその機能をどう評価していいか。ロボットをつくってきた人間が最終的にたどり着くのは、自分のつくったロボットは大丈夫か?どれくらい能力があるのか?ということなのです。産業ロボットであれば、何時間精度をキープするかなど性能評価があります。しかしメディカルロボットは人間が制御ループに入り、人間のパフォーマンスとロボットの性能が合わさるから非常に難しい。

―― 評価ロボットの開発意義はどのようなところにありますか。

福田 1つは医学生を訓練するツールとなる。2つ目は患者の症状は千差万別ですが、その人のモデルをつくって前もって実験し、確実にテーラーメイドの治療をできるようにする。3番目は医者が自分の技量はどれくらいかを知ることができるようになる。最近は、ロボットの使いこなしによって、手術のよしあしが決まってしまうことがある。昔はメスで切ることが技能でしたが、今はコンピューターを駆使したほうが手術がうまくいく。もちろん医療という知識があっての話ですが。知識があって技量があがるといい。そういうことを正しく評価しサポートするシステムが必要なのです。

 暗黙知の数量化をロボットを介して実現
―― 技能をコンピューターに置き換え、それを評価してさらに高度化を図っていく。モノづくりの指向性と同じですね。

福田 精度のよい金型をつくるためには技能のある人が自分の目と手で平衡を出しながら精度を出していきますが、技能の伝承には感覚を数量化することが必要です。暗黙知は数量化できないということではなく、情報、IT、RT(ロボットテクノロジー)を使って、定量化、数値化、データ化できるのです。ビデオを見て解析することもひとつの試みですが、人間の脳の反応まではわからない。むしろそこをいったんロボット的なものを介して見ると、ロボットのアルゴリズムで解析できますから、そういう形で落とした方がある意味でわかりやすい。暗黙知であるがゆえに中間にロボットを介して見ることも1つの手法ではないか。ロボットの動きからフィードバックしてみる。ITとRTの融合で技能の伝承ができるのではないでしょうか。

―― マニピュレーターとしての作業ロボットから、技能の伝承、技能の高度化をサポートするロボットへと、モノづくりの世界でもロボットの活用に広がりが出てきます。

福田 従来のロボット技術は機構的、制御的にどうやったら運動がうまくできるか、軌道をかいて障害物をどのように回避するかなどのアプローチが多かった。しかし最近はITとRTの融合した形態が多くなってきているのです。インターラクションするロボットであり、知能レベルの上がったロボット、ITと結合してデータベースをうまく使うロボットなどの研究開発が進んでいます。間口がひろがりアプリケーションできる形態に移ってきています。そういう意味で人間の思考形態、思考過程を見るロボットがあってもいいのではないか。プログラミングして、枠組みをつくって動かすのではなく、なぜこういう仕事をするのかというワンステップバックして見てくれるロボットが重要になります。

 具体的にいうと、人間とロボットが技術的な対話をして、ともに技能・技術を上げていくなどということも可能となる。一番簡単な例でいうとコンセントがあります。人間は簡単にソケットを差し込むけれども、ロボットは引っかかってできない。そこで自由度などロボットと対話しながら教えていく。そこに人間が生まれながらにして持つデータベースをロボットにトランスファーする形態が生まれ、ロボットが学習して技能を習得していきます。さらに、シミュレーションの世界と現実の世界を結び付ける。ロボットと人間が共同作業をして学習しあいながら生産性を高めていくなどということも可能になります。ラインをセル化して生産性が30%上がったなどということがいわれていますが、人間が持つ知識、データベースをロボットに組み込めば、より高いレベルの共同作業も夢ではありません。